こころが揺れるの、とめられない


「今日は帰ろ」


まるで小さい子に言い聞かせるみたいに。

柔らかに、なだめるように言われて、わたしのこころが、切なさに突き上げられた。


……昨日、色んなことがありすぎて、わたしの頭はキャパオーバーしてしまっているのかもしれない。

普段がどれほど能天気なのかを、思い知らされてる気分だよ。


たくさんの情報を頭が処理することができないまま、時間だけが過ぎていく。

あの後、どう部活を乗り切ったかちっとも覚えていないし、今日の授業だってなにひとつ頭に入っていない。


そしていつの間にか、わたしはいつも通り美術準備室にやってきていた。


ぼうっとしたままでも辿り着いちゃうなんて、……三澄くんとのこの放課後の時間は、すっかりわたしの体に染みついているみたいだ。


テーピングが施されたままの三澄くんの小指を、ちらりと見る。


……保健室でのことで、三澄くんと気まずくなったらどうしようかとも思っていたんだけど……。

どうやら心配しすぎだったようだ。


三澄くんは、驚くほどいつも通り。

……それがなんだか寂しいのは、今のわたしに、余裕なんてこれっぽっちもないから。


考えることが多すぎて、おかしくなりそうだよ。

ひょっとしたら、本当に、知恵熱でもあったりして。

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