こころが揺れるの、とめられない


泣いているところを見られてしまった件に関しては、……もういっそ、仕方がないと諦めよう。

……三澄くんは、わたしが誰のことを好きだったのかまでは、知らないはずだもん。

それさえ秘密にできれば、いい。


誰が見ているわけでもないのに、できるだけへっちゃらな顔をして、階段を下りる。

3階から2階への踊り場に到達したところで、……わたしの耳が、足元から聞き馴染みのある声を拾い上げた。

咄嗟に、立ち止まる。


手すりの向こうをひょこりと覗き込むと、ひとつ下の階を歩く、——綾人の姿。

そして、その隣にいる、笑顔の可奈ちゃん。

綾人に向けられていたくりくりとした形のいい瞳が、ゆっくりと、こちらを捉えて。


「あっ、みくる」

「お」


ふたりが、わたしの存在に気がついた。


……いつも通り、いつも通り。

胸の内でそう唱えながら、わたしは笑顔を浮かべた。

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