他の誰かのあなた
「じゃあ、また来週ね。」



雅人は、私の頬に軽いキスを落とした。



「……またね。」



私はいつも先に出る。
外は、いつの間にか、けっこう肌寒くなっていた。
コートの襟を立て、私は通りの方へ歩き始めた。
わずかな疲労感を引きずりながら。



23時近いというのに、街も人もまだ全然眠っていない。
溢れ出す光、そして喧騒…
今の私には、それらがどこか心地好い。



目に付いたバーに足を踏み入れた。
タバコとアルコールのにおいが充満した狭くて安っぽいバーだ。



カウンターの片隅に座り、私はそこでカクテルを頼んだ。
お酒はあんまり強くない。
舐めるように少しずつ味わう。
スマホを取り出して、LINEをチェックする。
特に、大切なメッセージは来ていない。
ニュースサイトや天気予報をぼんやりと見ているうちに、グラスは空になっていた。



(そろそろ帰ろう…)



私は再びLINEを開く。



『今から帰るね。』

それだけ送った。
すぐに返信が届いた。



『お疲れ様、気を付けてね。』

いつもと同じ文面。
私はスマホをしまい、騒がしいバーを後にした。


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