円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 カインから「こんなことがあったらしい」と執務や議会でのレイナード様の様子をかいつまんで聞いても、いまいちピンとこない。
 おそらく「キラキラ王子様」の仮面だけではなく「議会用腹黒王子様」の仮面も持っているのだろう。

 今回の議会は骨が折れた、ああシアに触れていると癒される、と言いながら中庭のベンチでわたしにもたれかかり甘ったるく微笑むレイナード様の手を握って「お疲れさまでした」と労った。

「議会の大変さも知らずに、わたし先日…その…子作りを毎日とか言ってしまって…」
 
 なるべく早く例の件を訂正しておかなければと思いつつ、レイナード様が議会で多忙を極めて学院を休みがちだったために、なかなか言い出せなかった。

 今がチャンスよ!

 勘違いしていました、と言おうとした瞬間、レイナード様がシャキッと体を起こして姿勢を正した。

「シア、心配しなくていいよ。議会の間も毎朝鍛錬は欠かさなかったんだ。だから大丈夫だ」

「いや、あの…わたしね、天使が…」

「うん、俺たちの子供はきっと天使のようにかわいいだろうね。毎日でも一日中でも大丈夫だよ。愛しい妻の望みを叶えるのが夫の務めだからね」

 ええぇぇぇぇっ!?
 どう言えばわかってもらえるの?

 レイナード様の肩越しに見えるカインとリリーに目で訴えても、二人とも肩を震わせて笑いをこらえているだけで助けてくれる気配がない。

 そんな二人の様子を知ってか知らずか、レイナード様はお構いなしに頬をほんのり赤く染めながら嬉しそうに笑った。

「シア、二人でこの国をもっと良くしていこうね」

 
 こうしてわたしは結局、円満な婚約破棄には至らず、一流のタンクにもなれないまま婚約を続行し、この1年半後に大好きなレイナード様と夫婦になったのだった。


 
 
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