円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
「結構よ。レイナード様に今更そんな告白されても、こちらも迷惑なだけですもの。週末のパーティーのエスコートも不要ですわ。もうすでにほかの方に頼んでいますので。今日はそれだけ言いに来ましたの。では、ごきげんよう」
 にっこり笑って、今度は勢いよくドアを閉めた。

「シア!」
 すぐにレイナード様が飛び出してきたようだけれど、わたしの姿は見つけられないはずだ。
 なんせ、2階の廊下の窓から飛び降りたんですもの。 

 来週からの騎士団の訓練に向けて、自主的に筋トレしておいて助かったわ。
 華麗に着地すると、その場から軽やかに走り出した。
 振り返っている暇などわたしにはないのだ。

 
 さっき勢いで「ほかの方にエスコートを頼んでいる」と言ってしまったけど、どうしようかしら。
 学院の敷地を掛けぬける途中にふとそのことが頭に浮かんだ。
 それは嘘だった。
 本当はそんなあては全くない。

 学院内の催しだから、お兄様たちにも頼めないし…。

 考え込みながら走っているうちに、曲がり角で誰かとぶつかりそうになった。
「うわあっ」
 相手がひっくり返って、尻もちをつきながらずれたメガネを元の位置に戻している。
 ボサボサの黒髪で小柄な、ひ弱そうな男子生徒だった。

「あら、ごめんなさい。ところであなた、パーティーのパートナーはもう決まっていて?」

「ええっと…まだです…が?」

 相手が戸惑っているうちに勢いで攻めまくるわ!
「じゃあ、わたしのパートナーになってちょうだい。エスコートお願いねっ!」

「……え?」
「『え』じゃなくて『はい』でしょ!」
「は、はい…?」
「やった!よろしくね。ところであなた、お名前は?」

 その日、わたしはルシード・グリマンという、魔導具師を目指す気弱な男子生徒と無理矢理パートナーになったのだった。


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