円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 レオンが名簿を見ながら参加者の名前を呼び、ひとりひとりの顔を確認していく。

「アーシャ・ビルハイム」
「はい!」
 勢いよく手をあげて、普段よりもわざと低い声で返事をした。

 わたしはビルハイム家の遠縁ということになっている。
 そうしておけば、兄と親し気に会話していても「親戚だから」で済む。この訓練には貴族の子供たちが多数参加しているため、ビルハイム家の出身というだけでは忖度はされない。
 それどころか、多少荒っぽいことをしても大丈夫だと、むしろ厳しくされるかもしれない。
 
 点呼を終えると、指導官3人の簡単な自己紹介と今回の体験訓練でのルールや注意事項を聞いて、さっそく二人一組でストレッチすることから始まった。

 あら、女の子たちと離れて真ん中に仁王立ちしていたのが仇となってしまったわ。
 
 女子たちはさっとペアを作って、わたしはあぶれてしまった。
 背中を押したりとかするんでしょう?できれば同性がよかったのだけど、でも騎士団に本当に入団したら圧倒的に男の方が多いのだから、男とか女とか言ってられないわよね。

 すぐ隣に見えた腕を掴んで「じゃあ、わたしたちでペアを組みましょう」と言いながら顔を見ると、なんとその人物は…。

「あら、コンドルじゃない」

 そう、あの入学鑑定の結果が「コンドル」で、いろんな人に「コンドルってどういうこと?」と聞きまくったがために、あだ名がそのまま「コンドル」になってしまった彼だった。
 ちなみに本名は知らない。

「おい、赤毛!気安く『コンドル』って呼ぶな!」
「あら、あなたこそ気安く『赤毛』って呼ばないでくれる?」

 背中合わせになって相手と肘を絡め、ひとりは相手を背負うように上半身を倒す。
 背負われた方は上半身がグーっと伸びるというストレッチだ。

 背負われる側になると、コンドルとは身長差があるため足がつかなくて、楽しくて足をバタバタ動かしたら「こら動くな」と叱られた。
 上になると楽しいのだけれど、交互にやるわけだから当然わたしが背負う側にもなるわけで…。

「ぐぐっ!重いぃぃっ、こんなに重かったら空飛べないわよ?」

「だから鳥じゃねーし!コラ、また足バタつかせんなって!」

 そんなことを言いあいながらストレッチをしていたら、
「おいそこ、おしゃべりするな!」
とレオンに注意されてしまったのだった。


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