天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
 頭まで布団をかぶってそんなことを考えていると、部屋の扉が開く音が聞こえた。ここに入って来る人物はひとり、壱生だけだ。

 息をひそめたまま彼が何をするのかじっと待つ。

 ギシッとベッドのきしむ音が聞こえて、布団の上から抱きしめられる。

「起きてるんだろ」

 どうやら壱生は純菜が起きていることに気がついていたようだ。ゆっくりと顔を出すとすぐ間近に壱生の顔があった。

「おはよう。よく眠れた?」

「はい……っ」 

 いきなり頬にキスをされて目を見開く。そんな純菜を見て壱生は笑った。

「挨拶のキスだよ。そんなに赤くなるな。こっちが恥ずかしくなる」

 気のせいか壱生の耳がわずかに赤いような気がする。そんな壱成の姿を見るのは初めてのことで思わず笑みを漏らした。

「海外では、挨拶のキスなんて当たり前ですよね」

 壱生は留学も海外での仕事も経験している。向こうの文化が身についていてもおかしくない。

「そう、恋人同士の朝のじゃれ合いも当たり前だから」

 そういうや否や、純菜のかぶっていた布団をはぎとった。そしてそのまま彼女に覆いかぶさる。

「まだ……朝ですよ」

「愛し合うのに、時間なんか関係ある?」

「ないんですか? でも朝からなんて……」

「不道徳?」

 壱生の言葉に純菜が頷いた。

「それがいいんじゃないか」

 ニヤッと笑った彼を見て、もう逃げられないなと悟った。それからいきなり噛みつくようなキスを落とされてその後は、壱生のなすがままだ。

「悪いな、初心者相手にがっついて」

「んっ……はぁ。本当に悪いと思っていますか?」

 彼の猛攻に息もとぎれとぎれの純菜が問う。

「全然、むしろもっとしたいって思ってる」

 唇の端だけ上げて笑ったその色気をまき散らすような笑みを浮かべた壱生に、純菜はなすすべもなく翻弄されるしかなかった。

 結局ベッドでたのはそれから二時間後。

 シャワーを浴びてリビングに向かうと、壱生がケータリングを手配してくれていた。

 クラフトのボックスの中は十二個に分かれており、ラップサンドやサラダ、唐揚げやオムレツが綺麗に並んでおり、目に見るにも華やかで食欲をそそられる。

「わぁ、かわいい」 

 喜びの声を上げる純菜を見て、壱生は笑みを浮かべる。

「よかった。外にでてもよかったけど、疲れているだろうから」
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