夜を越える熱
再会
一人で泣いて落ち込み、時折金曜日の夜のことをぼんやりと考えながらも土日はあっという間に過ぎた。


あの夜のことは夢か幻だったようにも思える。暗がりの中で一瞬光を反射した深い瞳。吸い込まれそうな夜だった。なぜ、あの人にあんな話を思わずしてしまったのだろう。








月曜日。

また新しい一週間。


何事もないかのように出勤したが、職場で今までずっと好きだった人に会わなければならないのはやはり辛かった。


高松直樹。


藍香とペアを組んで仕事をしていたが、彼はこのたび一つ昇進して主任になった。担当者である藍香と同じ仕事をすることはもうない。


今日からは忘れる努力をしよう、そう思って出勤した。けれど朝、高松の顔を見るとまた感情がぶり返しそうで、藍香はそっと視界から彼を外して自分の席についた。




午前の仕事に取り掛かる。集中することでいらない思考を締め出したいと思って、一心不乱に目の前の仕事に取り掛かる。……と、ふいに横に立った美桜の気配がした。


「あ、美桜……。おはよ。金曜日はごめんね」

「おはよ。ううん良いんだけど…ねえ、聞いた?なんかさ、システム障害が起こってるらしいよ……」


美桜のそんなささやき話が耳に入る。

藍香の部署は、顧客情報を扱う部署でもあるため、大量の個人情報を保有している。システムに何かあったら最悪の場合、データの破損や情報の流出に繋がりかねない。


いつも細心の注意を払って情報を扱っている。

「システム障害?」


嫌な予感がして周りを見回す。いつの間にか
課長も係長も姿が見えない。それがますます不安を煽った。

「なんかね、ミスじゃないかって……」


心配そうに美桜がこちらを見る。個人情報の入力、対象の情報の抽出作業は藍香の仕事の一部だ。


繊細な作業のためいつも気をつけながら作業を行っているのだが、あの日……金曜日は感情がひどく動揺していて集中していなかったと思う。



─抽出ミス。もしかしたら入力間違いの可能性もある、私のせいかもしれない。



事の重大さに瞬時に青ざめた。




─どうしよう、大変なことになってしまったかも……



失恋しただけでなく、仕事でまで大きな失敗してしまった。


目の前が真っ暗になった気がした。







………でも、これがきっかけでまたあの人に会うことになるとは──





新しい恋の渦に落ちていくとは……




その時は想像もしていなかった。








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