カフェオレ色のアナグ・・・ラ[ブ=]無 ─ Anagram ─

[4]

 ややあってワタシは()()()()名を告げた。

 (うつむ)きがちにボソボソと(つぶや)くように、飲みきった紙パックを手持ち無沙汰なように折り畳みながら。

「テシガワラ……ホタル、です。ちなみに十七歳、高校二年」

「ホタルさん、ですか。素敵なお名前ですね。やはり漢字は、水辺で輝くあの『蛍』でしょうか?」

「ううん……」

 とそこでワタシは両掌に(あご)を乗せ、渋い顔つきで目を伏せた。

 「こんな会話で始まった自己紹介だもんね、漢字も()かれちゃうよね~」と小さな声でぼやいてみせる。

 それから「貸して」と言うようにペンを指差し、アナログさんの名の下にその名を書き(つら)ねた。

 『勅使河原 穂垂』──「画数多くてイヤになっちゃう」そう言って深い溜息をついた。

「それに「垂れる」って字が嫌い。こんなの名前に使う文字じゃなくない? 垂れて良いイメージなんてある??」

 指先でペンを回しながら、上目遣いにアナログさんを目に入れる。

「僕はそうは思いませんけどね。穂が垂れて『穂垂』だなんて、きっとご両親は素晴らしいイマジネーションの持ち主であられるかと」

「そうかなぁ?」


< 10 / 33 >

この作品をシェア

pagetop