ドSな天才外科医の最愛で身ごもって娶られました
 あははと笑ってベンチから立ち上がるとき、彼が差し出した手を取った。

 いいのかな、本当に。

 ふと、母の言葉を思い出した。

『私はお父さんを信じてあげられなかったの。弱かったから』

 母は後悔しているように感じた。

 それでも私は、母を後悔させる父が許せなかった。疑われる父が悪いのだと、ずっと思っていたから。

 その後、父がどうしているかは知らない。

 でも、母のお墓に行くとお花が飾ってあるときがあって、もしかしたら父なのかもしれないなと思うのだ。

「どうかした?」

「ううん、なんでもないの」

 いったんは口をつぐんだけれど、さっきの彼の言葉を思い出した。

『頼む。これからは、少しでもおかしいと思ったら、どんなに些細な出来事でも言ってほしいんだ』

 私の父の話だから、慎一郎さんにも聞いてほしいと思った。

「父のことをね、考えていたの」

「桜子のお父さん?」

「そう。なんとなくね」

 母と父の話を聞いてもらった。

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