イノセント*ハレーション
文化祭の準備は着々と進み、カフェで提供する軽食の試作をする日がやって来た。

女子は接客チームと調理チームに分かれ、もちろんあたしは調理チームを希望した。

接客になると、メイドカフェの店員のようなフリッフリの衣装を着なければならないということで、絶対に着てたまるかと思った。

調理チームはあたしも含めて全部で5人。

クラスの女子が15人いて残りは接客とかおかしすぎる比率だと思うけど、仕方がない。

そういうクラスだから。

と、ここでも諦念を発揮する。

イチイチ考えていてもしょうがない。

こんなことに労力を費やしていられない。

そう思えていたら、あたしがあの時あんな風になることもなかったのに...。


「凪夏ちゃん?」

「あ、ごめん。ぼーっとしてた」

「もしかして、疲れてる?ほら、クッキーの試作もう3度目だから」

「ううん、大丈夫。それより、あたしサンドイッチ作るね」


あたしは持ち場に戻り、サンドイッチの仕込みを始めた。

料理をしていると余計なことを考えずに没頭していられるから、わりと好きだったのに、今日はなぜかぼんやりとしてしまう。

窓の向こうの今にも雨が降り出しそうな天気のせいなのか、それとも...。

なんて、また明後日の方向に意識が飛んで行きそうになり、あたしは無理やり舵を切った。

卵を茹でている間にレタスを洗ってちぎったり、ツナマヨを作ったり...。

サンドイッチだけじゃなくてホットドッグも提供しようってことになって、急遽購買の残りのロールパンをかっさらってきて作ったり。

オリジナルドリンクとして提供する"太陽ソーダ"のオレンジとパインのジュースとソーダ水の黄金比率を研究したり。

キッチンから購買部までを行ったり来たりしているうちに、時計の針はくるくる回り、ねずみ色の空が一層濃く深くなってきた。

そして、予想はしていたけど、本当に食いしん坊達がやって来た。

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