イノセント*ハレーション
「少々マンガ上に良くある表現として恋っていうのは、
"自分が自分じゃなくなる感覚"とか、
"その人のことをもっと知りたいって思う気持ち"とか。
まぁ、とにかく恋は複雑な心境の一種ってこと。
答えろって言われても解けない難問なんだよ、きっと」


弓木くんは納得してくれたのか、星見に飽きたのか、首を元の位置に戻した。

そして、ゆっくりとこちらに顔を向けた。


「ん?」

「雨谷って、やっぱ雨谷だよな」

「...はぃ?」


何を言っているのか理解出来ない。

疲れすぎて思考も呂律も回らないんだろうなと慮る。


「雨谷はずっと雨谷のままでいて欲しい。さっきは冷めてるとか客観的に見て大人ぶってるとか言って...ほんとごめん。そういう雨谷の視点も必要だってなんとなく分かった。だからその...」

「ありがと」


言われる前にあたしは先手を打った。

言おうと思っていたこと、ちゃんと言葉に出来て良かった。

17になり、少しは成長出来ただろうか。

出来たと信じたい。


「あたし、さ、弓木くんに言われて色々大切なことに気づかされた。だから、こっちこそ、ありがと。はっきり言うとこ、あたし嫌いじゃない。これからも言いたいことは言って。さっきも言ったけど、あたし傷つかないから。何言っても大丈夫。全部ちゃんと受け止める。そう...決めたから」

「そ。なら、遠慮なく言わせてもらう」


弓木くんは高らかに笑った。

大声を上げて笑った。

あたしの発言の何がそんなに面白いのか分からないけど、深刻な顔をされるよりは良い。

あたしが誰かをまた笑わせることが出来たなら...嬉しい。


「笑ってないで行くよ」


あたしはだいぶ離れてしまった4人を見失わないように、下駄をカタカタと軽快に鳴らしながら駆けたのだった。


------------------------------------------------------------

20✕2年8月5日

天気 晴れ

予定 誕生日と花火大会


花火の写真スマホで撮れた。

後で現像する。

新しい風が吹いた。

どうか、嵐の前ぶれでありませんように。

誕生日くらい願いを叶えて、神様。

< 74 / 220 >

この作品をシェア

pagetop