【短】心臓が何度も壊されるのに、まだ好きで。


私は、そっと通話ボタンを押して、瞳を閉じた。


好きで、愛して、燃えて、灰になった私の心。


こんなにも酷い仕打ちで、心を壊されていくのに。



私の気持ちのベクトルは…まだ、貴方へと向いている…。



「は…っ…。まだ、好き…か」


自嘲気味に、微笑もうとして失敗する。


ぐしゃり


掴んだ前髪に力が入ってから、ポタポタと涙が落ちた。



愛してなんかやらない。



そう決めたのに、体を許したのは…一時の迷いなんかではなく、本能で。


私は彼の一部になれたと、そう思い込んで必死にしがみついで来たのに…。


「なんで、こうなるのよ」


呟きは果てしなく深い闇へと落ちる。
それは、私の心の深淵だった。


狡くて、甘い棘を持って、私の肌に次々と傷痕を残して、そんな中で囁かれる睦言に溺れるわけにはいかなくて、十二分に虚勢を張って、私なりに出して来た結論。


「ばかなのは、私だな、いつも…」


そう…。

貴方と触れ合ってしまったあの夜から、私の身はジリジリと灼かれ、死刑台に乗せられていたんだ。


何時か、こうなることを望んで…。


燎原の火…。


燃え上がり、息も絶え絶えになり、地獄の中を這り回る。



そんな辛さを…貴方は分かっていますか?


ただ【アイ】を囁やけばいいわけじゃない。


気付かない内に、誰かを傷付けていることを…その身に刻みなさい。


誠実さなんてどこにもない、真実なんて欠片もない、曖昧で不安定な蜜を啜って…本物の愛を見出しそうとする貴方はどこまでも子供で、憎くて…。



こんなにも、壊されるのに。


まだ、好きで…。




Fin.
< 4 / 4 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:2

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

【短】甘く溺れるように殺される。

総文字数/5,008

恋愛(純愛)6ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
まるで、ピエロ…。 半笑いを浮かべ、涙も頬に描くだけ。 光を浴びるのは何時も自分以外で…。 縛り付けて、愛されたい。 そう焦がれるにも関わらず…。 最後はボロボロの一人芝居。 「願い事を口にしてしまってはダメ」 「どうして…?」 「叶わなくなるのよ」 「でも、俺はお前と居たい」 「ダメよ…そんなことを言わないで」 いじらしくて、可愛げがあって…。 もっと素直でいられたら。 そんなことを願った日は数多い。 それでも…私達の終幕は、もう。 始まっているんだ。 鷹野晃司(たかのこうじ)42歳 × 綾瀬虹子(あやせななこ)29歳 今、口にした言葉。 思ってもいないモノならば。 そこら辺の闇に投げて捨てて。
表紙を見る 表紙を閉じる
たとえば…。 首筋に薄っすらと付いた傷痕。 たとえば…。 ワイシャツから香るボディーソープの匂い。 たとえば…。 噛み合わない約束。 ねぇ? 貴方は、如何しょうもない男。 だから。 私が拾ってあげたのに。 またそうやって…。 何も知らない影に手を出しているのね。 もう…そろそろ。 こんな関係、止めにしましょうか。 結婚三年目…。 それは、どの辺りが消費期限なんでしょうか? 貝塚奈々恵(かいつかななえ)30歳 × 貝塚敦(かいつかおさむ)29歳 不成立にして非生産的で。 何処までも惰性した関係…。 その逸した視線を貫いて。 私が最後の言葉で貴方を殺めてあげる。
【短】報われない片想いは無益だと思いませんか…?

総文字数/3,861

恋愛(オフィスラブ)3ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
知っていたら、手なんか伸ばさなかった…。 他の誰かと重ねる貴方を。 好きになる事はなかった筈なのに…。 小宮山圭子(こみやまけいこ) × 園部駿(そのべしゅん) いらない、いらない、いらない。 そんな、重い愛なら…。 私はいらない。 そう思うのに、また求めてしまうから…。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop