明日、きっと別れを告げます
もっと、言うことはあったはずだ。
もっと、責め立てることもできたはずだ。
その場で、別れを告げることだってできたはずなのだ。

それなのにできなかった。
雰囲気で流されて、優しい言葉に絆されて、そうして簡単に人を信用して。
それで後悔して泣いて惨めな気持ちになるのは私なのに。

もし本当に夫婦生活が破綻していて、離婚する気持ちも本当で、私を好きだと言ってくれる気持ちも本当だとしたら、私はどうしたらいいのだろう。
いくら夫婦生活が破綻しているからといっても、結婚しているのならそれはやっぱり不倫になるわけで。

騙されていた……といったら聞こえはいいけれど、それは自分をただ正当化しようとしているだけな気がして心は穏やかではない。

それに、明日の会議のための資料作りは嘘かもしれない。
家には奥さんと子供が待っている。
だから夜まで一緒にいられないのかも。

考え出したらもうそれしか考えられなくて、ますます胸が苦しくなる。

同僚が言った、「高野さん奥さんいるよ」その言葉がすべてを現していたのだと思う。
そうやって私に忠告してくれるということは、きっと知らないところで噂にでもなっているのだろう。
自分だけが浮かれていてまわりの声が耳に入らなかった。
自分の見えている世界がすべての世界で。
忠告してくれる同僚や幸せを願ってくれた宗田くんの気持ちを蔑ろにした。

この罪は一生消えない。

「……っう」

込み上げてくる熱いものは涙となって、冷ややかに頬を濡らす。

愛されていた。
幸せだった。

綺麗だった思い出はすっかりとくすんで、闇に落ちていくように汚れていった。

人を好きになることがこんなにもつらいことだなんて思わなかった。
これを恋だとか愛だとかで表現していいのかわからないけれど。

これ以上深みに嵌る前に。
これ以上罪を重ねる前に。

明日、きっと、彼に別れを告げる――。


【END】
< 9 / 9 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:23

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

表紙を見る 表紙を閉じる
*** コミカライズしていただきました。 2024.7.17 まんが王国にて先行配信 改題:偽装婚〜この溺愛、本物と勘違いしそうです〜 *** 自分の置かれた境遇に 不満がないと言ったら嘘だけど…… それでも仕事をしているときが一番楽しくて ここで働かせてもらえていることを ありがたく感じている そうやって小さな幸せを大事にしてきた 幸山やえ《さちやまやえ》(25) 「俺と結婚しよう。素直に頷いておけ」 ひたひたと心に侵入してくる若き社長 久賀智光《くがともみつ》(30) 優しさに溢れる恋を、あなたに――。
俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい

総文字数/79,405

恋愛(オフィスラブ)112ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
西村奈々(27) × 倉瀬祐吾(28) 二人が初めて出会ったのはニューヨーク。 だけどお互いその事を知らぬまま、人事異動により同じ部署で働くこととなる。 最初は印象がよくなかった二人。 仕事を通して見えてくる人柄。 「お礼なら今もらう」 「えっ?」 それはイチゴミルクよりも甘いキスだった──。 ********** 拙作【恋が始まる】のリメイク版です。 ストーリーはほぼ変わっていませんが、一部追加したりしています。これに伴い、【恋がはじまる】は非公開とさせていただきます。
癒やしの小児科医と秘密の契約

総文字数/102,033

恋愛(オフィスラブ)120ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
大好きな佐々木先生がお見合いをするって言うから、ショックすぎて……。 酔った勢いで思わず告白してしまった。 「絶対先生を振り向かせてみせます!」 そう宣言したものの、どうしたらいいかわからずひたすら「好き」と告白する毎日。 「仕事中だよ」 告白するたび、とても冷静に叱られています。 川島心和(25) 小児科の看護師 × 佐々木俊介(30) 小児科医

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop