離縁するつもりが、極上御曹司はお見合い妻を逃がさない
危ない。緊張しすぎて自分の名前を言いそうだった。

実は今日は、同じ職場で働く竹内さんに頼まれて、見合いの代役をしているのだ。


「竹内、さん……。改めて、津田直秀(なおひで)です」


なぜか不思議そうな顔をした津田さんだったが、優しい笑みを浮かべて自己紹介をしてくれた。

それからすぐにふたりの仲居さんが料理を並べ始めた。


「竹内さんはお飲みになれますか?」
「たしなむ程度です」


本当の竹内さんはザルなのだけど、私はすぐに酔ってしまう。


「それでは乾杯だけでも」
「いただきます」


彼が徳利を私に差し出すので、お猪口を手にして注いでもらった。
お返しをして乾杯だ。


「今日の出会いに」
「乾杯」


出会いなんて言われて罪悪感が募る。

この見合いは、私の職場である野上(のがみ)総合病院、小児科病棟の看護師、竹内さんが来るはずだったもの。

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