シークレットの標的(ターゲット)
酒と歯形と男と女
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なぜ緒方さんが私の飲み会の予定を知っていたのかわからないけれど、確かに私は今夜予定があった。


「生お代わりくださーい」

ジョッキを持ち上げると「大島さん、ピッチ速くない?」と草刈先生に心配され「荒れてるわねぇ」と松平主任にくすりと笑われる。

草刈先生に誘われて主任と三人で食事しに来ているのだけれど、今日の私は緒方さんに振り回されてイライラとしているのだ。

「何なんですか、なんですか、ホントにあの緒方って人は」
あー、イライラするっと舌打ちをして私はまたごくごくとジョッキのビールを飲み干していく。

「あなたたち、付き合ってるんじゃなかったの?」
「付き合ってません」
草刈先生に聞かれて即座に否定した。

「あら、でも緒方くんが」
草刈先生が首を傾げ、そうそうと主任も頷く。

「緒方さんが、って何ですか。まさか変なことを吹き込まれたんじゃないですよね」
嫌な予感に眉をひそめて二人を見た。

「変なことっていうかーーねえ、主任」
「ええ。あのキスマークを誰につけられたかは言わなかったけどーー」

「けど?!けど、何ですかっ」
私はぎょっとして身を乗り出した。
何を言ったんだ、シークレット。

「聴診器当てたときに私たちがキスマークに気が付いたのはあちらさんもわかったみたい。もちろんお互い何も言わなかったわよ。でも、診察が終わって退室するときにあなたの話をしたからてっきりーー」
草刈先生がニヤニヤとし始める。

私の話をしたってぇーーーーーー
「な、なんと?」

「だ・か・ら、大島さんが情熱的でかわいいって」

なんですとーー!!!!


本日2回目の目眩がーーーー



「・・・アイツ、私のことは女除けに使うつもりなんです。たぶん。いや、絶対」

クラクラする頭に更にアルコールを入れているので、もっとクラクラにしていく。
もうこうなったらやけだ。

「あのキスマークつけたのは大島さんで間違いないってことでいいのね」

草刈先生の目がきらりと光る。

「いえ、そこはその・・・黙秘で」

そこまで職場の人にリアルなプライベートを晒したくない。
しかも、私は記憶が無い。歯形に関しては私がやったものだけど。

そこまで言うと、珍しく主任がきゃあきゃあと黄色い声を出し始めた。

「最近そういう話題が身の回りになかったから新鮮だわっ」
「勢いでやっちゃったけど相性が良くて身体から先に入り愛に発展したのね」
主任は目を輝かせ、草刈先生は身も蓋もない言い方をする。

「黙秘です。それと、愛は目覚めてません」

ちゃんと主張すべきことは主張しないと。











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