クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
Prologue
女の子は、年頃になったら素敵な旦那様と結婚して、幸せになる。
それは私にも当てはまるセオリーだと思っていた。


漫画や小説、映画、ドラマのように、結婚が恋愛のゴールにはならないのはわかってる。
結婚したらやがて子を生し、温かい家庭を築く……小さい頃から私が漠然と描いてきた、普通だけど極上の幸せは、夫婦の営みを越えたその先にある。
結婚初夜、それが幸せのスタートライン――。


だから今日、私、藤崎(ふじさき)凛花(りんか)は朝から尋常じゃないほど緊張していた。
仕事が忙しくて、結婚式ですら一日休暇を取れないお相手の意向で、夕刻、互いのごく身近な人だけを招いたささやかな結婚式を執り行った。
披露宴は日を改めることになっていて、食事会もなし。
簡単な挨拶と後片付けを終えると、日が暮れて早々、新居に入った。


夕食は後回しで、『シャワー浴びてこい』と勧められた。
私がシャワーを終えてリビングダイニングに戻ると、今日から私の旦那様……十歳年上の瀬名(せな)奎吾(けいご)さんは、ソファに座って目を閉じていた。


先に入浴を済ませた彼のさらりとした短い髪は、もうすっかり乾いている。
私は、背中半分の長さがある焦げ茶色の髪をタオルで拭いながら、壁時計を見た。
私がバスルームに入ってから、すでに五十分経過している。
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