クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
私はその横顔をそっと窺う。


「あの……篠原さんとご主人、どうなるでしょうか」


怖々と訊ねると、菜々子さんは「うーん」と口をへの字に曲げて唸った。


「ご主人が離婚請求を取り下げるかどうかに寄るけど……最悪でも、篠原さんの条件は通るんじゃないかしら」

「条件?」


反芻して聞き返す私に、ひょいと肩を竦める。


「子供の父親にってヤツ。婚姻中の妊娠だし、生まれてからDNA鑑定でもなんでもすれば」

「そっか、よかった……仲直りできるのが一番ですけど」


私はひとまず、ホッと胸を撫で下ろす。
すると、菜々子さんが横からツンと肘で突いてきた。


「凛花ちゃんもね」

「え?」

「篠原さんは、反面教師。素直になれずに意地張った顛末だと思って。羽目を外した家出は、一泊で満足しときなさいよ~」


事務所のビルから出たところで、バンと背中を叩かれた。


「う」

「じゃあね。また明日」


彼女はよろめく私にヒラヒラと手を振って、私とは反対の方向に歩いていってしまった。
私はその背中を見送りながら。


「……家出じゃないですって」


眉をハの字に下げて、肩を落として息を吐いた。
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