クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
「こんな賑やかな場で、可愛い妻をほったらかしとは。梗平(きょうへい)は相変わらず瀬名の異端児だなあ」


ひょいと仰ぎ見られ、私は眉をハの字にしてぎこちない笑みを浮かべた。


「お祖父様、私は……」

「弟の方はどうした。純平(じゅんぺい)も仕事か?」


私は返事に困って、笑顔のまま固まった。
梗平、純平というのは、瀬名本家のご兄弟だ。


私の実家は政治家や官僚が多い一族で、瀬名家とは古い付き合いがある。
私は現総務省次官の父に連れられ、幼い頃からこういった催しに出入りしていたため、一族の方々とも面識がある。
長老も私を覚えていて、今でもこうして可愛がってくださる。
お身体は健やかだけど年相応の物忘れが見られ、どうしてだか、私のことを梗平さんの妻だと思っているよう。


「ええと……」

「お祖父様、こんにちは。卒寿のお祝い申し上げます」


私がなんと説明しようか言い淀んでいると、前方から黒いフォーマルスーツに身を包んだ男性が近付いてきた。
長老もその声に反応して、「おお」と目元を綻ばせる。


拓哉(たくや)か。大きくなったなあ」

「……祖父ちゃん、俺もう三十二なんだけど」


朗らかな笑顔をひくっと引き攣らせるのは、朝峰(あさみね)拓哉さん。
瀬名一族の中では、本家からの分家筋にあたる。
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