クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
「二課のヤマはただでさえ解決に年単位の時間がかかる。一週間などと大見得切って、一年二年かかってみろ。愛想尽かされて離婚されるぞ」


鬼の首を取ったかのような上から目線をバックミラー越しに流され、俺は一瞬ギクッとした。
今夜から早速凛花を預けられるのは、彼女が荷物をまとめて家を出ていたからだ。
先ほど、俺はこの状況について話し終えた後、ずっと気になっていた旅行用のボストンバッグについて訊ねた。


『凛花、その荷物は……』


俺の話に呆然としていた凛花も、慌てたように『あ!』と声をあげた。


『これは、違うんです。逃げるとか……家出とかじゃなくて』


そう言って、気まずそうに俺から目を逸らし……。


『……一度奎吾さんから離れて、一人になって考えたくて。そう思って今朝家を出たんですけど、やっぱり帰ろうって考え直したところで』


何故考え直したかはわからないが、彼女は今朝、俺から離れようとしていた。
その理由は……聞くまでもない。
結婚記念日、俺は凛花の願いを叶えてやれなかった。
その上、劣情に駆られて手を出してしまった。
間違いなく、俺のせいだろう。


そんなことを純平が知るわけがないが、このタイミングで『愛想尽かされて離婚されるぞ』という嫌みはリアルで、胸にズンと圧しかかる。
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