クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
「あいにく、生まれつきこの顔でして」


相手は警視長。
上官だが、俺は無愛想にそっぽを向いた。
国枝部長が、溜め息をつく。


「接待を受けるのも、警察の仕事だろう」

「一日ならいいですよ。二日続けて、こんな大仰な歓待は不要でしょう」


俺は刺々しく返して腕組みをした。


「大体、我々は捜査に来ているんです。こんなことしてる間にも、できることが……」

「これだけベッタリ張りつかれちゃあ、なにをしても無駄足だ。それより、香港警察の内情を引き出すことに専念しろ。お前も昨夜、今回はより多くコミュニケーションを取るのが先決と悟っただろう?」


厳しく顔を歪めて諫められ、俺も唇を結んだ。
――その通りだから、反論もない。


国際詐欺事件で、香港の貿易会社のネットサーバーをハッキングしたハッカーグループが判明した――という報告が入ったのは、二日前の夕刻だった。
ハッカーグループについては、香港警察が捜査を進めているが、俺たち日本側も、藤崎六郎との接点を調べる必要がある。


電話やメールでの聞き取りは埒が明かず、香港に出張する必要があると判断したのは俺だ。
もちろん、部下の刑事に命令するつもりでいた。
ところが、この秋の人事異動で刑事部長に昇任した国枝部長が、新総指揮官として顔を出しておくなどと言い出したため、俺にお鉢が回ってきた。
< 75 / 213 >

この作品をシェア

pagetop