クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
「ん……」


目を覚ました時、私は自室のベッドでちゃんと布団をかけていた。
窓にはカーテンが閉められていたけど、向こう側は明るく、すでに朝を迎えたことがわかる。


「奎吾さん……」


私は無意識に彼の名を口にしながら、身体を起こした。
昨夜、奎吾さんの帰りを待っていたはずなのに、自分のベッドにいるのは、彼が帰ってきて運んでくれたからに違いない。


私はベッドから下り 、部屋を出た。
寝室に行くまでもなく、リビングのソファで彼を見つけた。
スーツを着たまま、ネクタイを緩めただけの格好で眠っている。
いつ帰ってきたんだろうとか、どうして起こしてくれなかったんだろうとか、いろんな疑問が胸をよぎったけれど、なによりも自分への不甲斐なさが勝った。


私は、眉間に皺を寄せて眠る彼の寝顔を見下ろしてから、ぼんやりと大きな窓を見遣った。
リビングの壁一面の窓にカーテンはなく、明るい日が射している。


結婚初夜……妻として最初の務めを果たせなかった。
情けなすぎて泣きたくなって、奥歯を噛みしめて堪える。
初夜とは言えないけど、今夜こそ。
今夜は絶対、立派に務めを果たさないと――。


でも、流れた初夜のやり直しはなかった。
今夜こそ、という気負いは果たされないまま、私の胸で燻り続け――初めての結婚記念日を迎えようとしている。
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