朝を探しています
6.砂上

〜波那〜

 病院から戻った後、子どもたちを寝かせたベッドの横でしばらく様子を見ていたが、知らぬうちにうとうとしていたらしい。

 波那はぱちりと目を覚ますと、琴乃に手を握られたまま眠っている幸汰のおでこに手をやった。
「…良かった…。」
 病院から戻った後も、熱は平熱のままだ。

 時計を見ると、7時になっていた。
 結局家に着いたのが5時前だったので、子どもたちにはまだまだ睡眠が必要だろう。
 起きたらすぐに食べられるように何か準備しておこう…

 しかし、椅子から立ち上がるとすぐ波那は酷い目眩に襲われて床に膝からくずおれた。
 しばらくその体勢のままで目を閉じていると、夕べからの出来事が頭の中を巡った。
 
 結局、雅人からは何の連絡もなかった。
 病院から出る時に一度だけメールを入れておいた。『幸汰、家に帰ってもいいそうなので、帰ります』とだけ。
 経過について何も触れていないそれを雅人がどうとるのかわからないが、波那にはそれだけ打つのがやっとだった。
 少なくとも子どもたちをベッドに寝かせた時には、まだ既読になっていなかった。
 それを確認した後、波那もスマホをリビングのソファに置いたまま寝室に入った。何度もそれを確認することに耐えられなかった。


 雅人は出がけに、スマホをズボンのポケットに入れていた。私服で出かける時はいつもそうだ。
 マナーモードにしていたとして、ここまで着信に気付かないことなどあるのだろうか。ズボンを脱がない限り…

 目眩がおさまっても、波那は立ち上がれないでいた。

 …雅人に浮気相手がいたとして…
 波那の目頭がじわりと熱くなる。思わずぎゅっと目を瞑った。

 …ううん、きっといる。
 雅人はその人に恋をしている。とても好きなのだ。…私よりも。

 いつか、その人と生きるために私たちを捨てるのだろうか。あの人たちのように。
 昨日までいい父いい夫の顔をして、ある日突然背を向ける。
 私が問い詰めたら雅人の『ある日』は今日になるのかもしれない。…でもこのまま何も知らないふりをするなんてこと、私にできる気がしない。…でも…

 無限に続くかのようなループに波那がとらわれていると、玄関でガチャガチャと鍵を開ける音がした。次いで靴を脱ぐ音と短い廊下を走る音…そして慌てた声が聞こえた。
「波那っ、幸汰は⁉︎」
 

 リビングを突っ切って寝室のドアを開けた雅人と床に手をついている波那の目があった。

「波那⁈」

 

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