初恋幼馴染みに求婚されました
「それにもし梨華がまったくできなくても、俺が作るし」

「え、宗君が⁉」

驚いて目をパチパチと瞬いた。

「忘れたか?昔、ホテルでバイトしてたの」

宗君は結城家の人間なので、将来結城の上に立つために学生の頃から系列のレストランのホールや調理場、またホテルでアルバイトをしていた。

結城の名を名乗らず、おばさんの旧姓で名乗り働いていた彼を、私は尊敬していた。
それと同時に、宗君の帰りがとても遅かったので、アルバイト先に彼女ができたのではないかと、毎回ヒヤヒヤしていたものだけれど。

「覚えてるけど……宗君料理できるの?」

「まぁ、人並みには」

なんてことだ……。
想定外の事実に口がポカンと開く。

「だから安心して梨華はそのまま俺の側にいればいいよ」

情けなくて固まる私に同情したに違いない。
宗君は、私の頭をポンポンと撫でて優しい力で抱きしめた。

「ううん、料理頑張って作れるようになるよ」

「梨華は昔から頑張り屋だもんな、期待してるよ」

宗君は、まるでキスをするように私の頭に顔を埋める。
急に胸がドキドキと高鳴り始めた。

そのせいで、彼が不機嫌だった理由をすっかり忘れ、ときめきで胸をいっぱいにして、料理への意欲に燃えるのだった。
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