うましか
二時間黙って隣に座り互いの空気を馴染ませていこう

 気を遣われている、というか……距離を感じる、というか……。妙な違和感とともに過ごした数ヶ月だった。

 高校の同級生とはいえ、当時は数えるほどしか話したことがないから、一から関係を作っていかなくてはならないということは理解している。わたしたちは「同級生」というより「大人になってから出会った人」だ。

 この数ヶ月で、小林くんとは八回デートをした。今日は九回目である。
 九回目ともなれば違和感の原因はすでに判明し、言うか言わないか、回を重ねればお互いに慣れて普通の友人になっていくのか、もやもやしながら過ごした日々だった。

「今が十六時だから、このあと車で北仙台まで行って食事にしよう。前に職場の先輩に連れて行ってもらったイタリアンダイニングで、余裕を持って十七時に予約を入れてある。ゆっくり食べても、予定通り十九時には笹井さんを家まで送れると思うよ」

 これである。予定を決め、その通りにこなす。まるで仕事のようなデートだと、近頃ずっと思っている。

 こちらの都合の良い日を伝えると、日時や行き先、内容、移動手段、拘束予定時間と、帰宅時間までしっかりと決めて、連絡がくる。
 当日は本当にその通りに行動し、遅くとも二十時までには解散となる。送ってくれたお礼に、と部屋でのお茶に誘っても「予定時間外だから」と断られる。

 デートの内容はドライブだったり公園でのピクニックだったり展覧会に行ったり。
 さらにここ二回のデートは、水族館と動物園。彼はわざわざ有給休暇を取ってデートに臨んでいた。

 そりゃあ暦通りに働く会社員の彼と、基本的には不規則なシフトが組まれる雑貨屋店員のわたしとでは休日が合わず、どちらかが休みを取らないといけないというのは分かるけれど。仕事のようなデートスケジュールに加え、有給まで取られてしまうと、なんだか萎縮してしまう。

 紳士、真面目、誠実と言えば聞こえがいいが、わたしにはこの丁寧すぎる扱いが、距離を感じてもやもやするのだ。

 そしてわたしは、動物園の駐車場で、カーナビに次の目的地であるレストランの住所を入力している彼に、ついに切り出した。


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