うましか
よいシエスタを

 十日間連絡がなかった彼女が突然部屋に訪ねて来て、物凄い剣幕で「旅行しよう!」と言い出した。
 急なことだったから何事かと思ったら、彼女は僕の両腕をがっしり掴んで、こう言った。

「わたしたち、付き合い始めて八ヶ月経つの。不定期だけどデートもするし、お互いの部屋に行き来もしてる、でものんびり長時間一緒にいたことはない。だから旅行しよう!」


 高校の同級生だった笹井友喜さんと八年ぶりに再会して、数ヶ月の友だち期間を経て付き合い始めたのは今年の二月のことだ。
 それから季節は春になり、夏が過ぎ、短い秋が来ている。再会してからは一年と少しが経った。

 その間には何度もデートもしたし、どちらかの部屋に泊まることもある。ただし泊まった翌日は必ずどちらかが仕事だから、慌ただしく別れる。

 会社員で暦通りに働く僕と、不定期なシフトが組まれて基本的に土日に休みがない雑貨屋店員の彼女とじゃあ、そもそもの生活サイクルが違っていた。特にこの春彼女が副店長になってからは、会う回数は目に見えて減ってしまった。

 だから彼女のこの提案を、拒否するわけがなかった。仕事だからなかなか会えなくても仕方がないと、理解はしている。けれど恋人と少しでも長く、ゆっくりと過ごしたいと思うのは当然のことなのだ。

 そういうわけで、お互いの誕生月である十一月の初旬に、彼女と初めての旅行に行くことになったけれど……。


 すぐに有給休暇の申請をして休みがとれた僕と違って、彼女はシフトの調整で大苦戦。どうにか二連休がとれたようだけれど、シフト表を見せてもらったら愕然とした。
 旅行前の二週間、朝昼夜まんべんなくシフトに入り、遅番の翌日が朝番だったり、遅昼昼朝遅昼の変則六連勤が組まれたり……。

 日程は決まったから、今度は行き先。その話し合いをするため、会う回数も会っている時間も増えたけれど、その分彼女の疲労も増している。

 この状況は本当に正しいのだろうかと疑問に思う。なにかもっと、こう……良い感じに折り合いがつかないものか。
 こうも上手くいかないのは、僕たちが思った以上に不器用だからか……。



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