ワケありイジワル王子はツンデレ姫様を溺愛したい。

監禁

【亮side】


それは、俺が家に帰ってから30分ほど経ってか
らの事だった。
梨愛の家から電話が来たのだ。
梨愛がまだ家に帰ってきていない、迎えを送ら
せているが、運転手によると一向に梨愛の姿が
見えないらしい、と。
普通ならもう少しくらい待ってから連絡してく
るだろうが、過保護な両親で、それに梨愛は時
間をきちっと守るやつだから、というのもある
だろう。
それにしても………心配だ。
梨愛がどこにいるのか、心配でたまらない。
好きだからこそ余計に。
俺は、気づいた時には学園に向かっていた。
教室にはいなかった。
梨愛の入っている保健委員会にも。
梨愛は部活に入っていないし、もう検討がつか
ない。
すると、なぜか俺の頭にこんなどうでもいい事
が流れ込んできた。
そういえば、昨日梨愛が3年の女子達とどこかに
行っていたな、と。
おい、こんな大変な時に何考えてるんだ。
…………いや、待てよ。確か、あいつ清美の
ファンクラブの……。
そして俺は、ひとつの答えにたどり着いた。
梨愛は、清美のファンクラブの奴らに何かされ
ている、と。
ここまで帰ってこないとなると、文句を言うだ
けじゃないだろう。
文句だけなら、かかっている時間が長すぎるか
ら。
なら…………梨愛は、身動きが取れなくて、帰
ってこられないのでは?
監禁………か。
となると………あそこだな。
俺は、噂などを信じるタイプでは無い。
でも、今は信じなくてはいけない状況に置かれ
ている。
だから。
俺は、校舎裏の倉庫へ来た。
もうその時には雨が降っており、辺りが薄暗か
った。
倉庫には鍵がかかっている。
くそっ。
「梨愛、いるか!?俺だ、亮だ!」
すると、かすかに聞こえた。
梨愛の………今までずっと聞いてきた声が。
でも、声色はかなり弱っているように聞こえ
た。
梨愛がドアの前にいたら危ないから………
「梨愛、今からドア蹴って開けるから、ドアから
離れてろ!」
そして少し待ったら、俺は思いっきりドアを蹴
った。
そして急いで中に入る。
「梨愛!!」
そこには、案の定梨愛がいた。
でも、梨愛は手錠で壁と繋がれていて、泣いた
後も見られた。
「りょ、う………?り、あ………え?」
梨愛の意識は混濁していた。
………!!
俺は猛烈な怒りを覚えた。
が、今は梨愛が最優先だ。
梨愛の手に鬱陶しく巻きついている手錠を壊
す。
そして梨愛を抱きしめる。
「梨愛、ごめん。ごめんな。俺がもっと早く気づ
いてれば………ごめん。」
謝って済むことじゃない。
けど、俺は謝るしか無かった。
自分の情けなさに吐き気がした。
でも梨愛は。
「亮は、何も、わる、く、ないよ………」
「っ………」
こんな時だって優しい。
すると梨愛はフラついて。
「梨愛?おい、梨愛!!」
焦っていて気が付かなかったが、梨愛は熱があ
った。
そして、梨愛は力尽きて倒れたのだ。
いてもたってもいられず、俺は梨愛に上着を被
せ、車まで梨愛を抱えて走った。
車に乗り込む。
「今すぐ車出せ。なるべく早く家へ着くように。
それと暖房つけて。」
「かしこまりました。」
梨愛、ごめんな。守ってやれなくて。
そして家へ着き、梨愛をベッドへ寝かせた。
そして熱があるためメイドに着替えをさせ、梨
愛の両親に連絡を入れた。
すぐにこちらへ向かってくるらしい。
俺は、梨愛のそばにいることしか出来ない。
梨愛の手を握り、何度も何度も謝った。
すると、すぐに梨愛の両親がここへ来た。
家が近所だから、こういう時は便利だ。
「梨愛!!」
「梨愛ちゃん!!」
相変わらずの親バカだ。
梨愛の両親は様子を見た後、俺に礼をしてき
た。
俺は守れなかったのに、なんで礼なんてするん
だ………。
それと同時に、俺は清美の事が腹の底からイラ
ついていた。
あいつは…………こんなだってのに、何してる
んだ、と。



梨愛は、次の日学園には来なかった。
まあ、そりゃそうだ。
熱があったし、心の面でもまだ休むべきだ。
今日、俺は不機嫌度MAXで家を出た。
なぜなら、ファンクラブの奴らのせいで梨愛が
危険な目にあったんだ。
そのふざけた連中を、ただ放って置くわけが無
い。
「どんな顔するか楽しみだ。」
俺は、1人黒い笑みを浮かべていた。
クラスの女子に聞いたらすぐ教えてくれた。
そのリーダーは、3年の鈴北彩乃って奴らしい。
なんでも、昨日梨愛の教室まで来て呼び出して
いたらしい。
鈴北………ああ、あの評判の悪いそこそこ稼い
でる会社の令嬢か。
まさに、あの親あってこの子ありだな。
手錠なんざ付けやがって………。
俺は、すぐに鈴北がいるC組へ向かった。
「失礼します。鈴北彩乃さんはいらっしゃいます
か。」
ニッコニコで言ってやった。
すると、そいつは犬のようにシッポを振りなが
らこちらへ来た。
「あら、1年の水野くんじゃない。わたくしに何
か用事でもあるの?」
ああ、たっぷりとあるよ。
「はい、少し場所を移しませんか?」
そう言うと、鈴北はなぜかパアっと笑顔になっ
た。
「それって………わたくしと水野様2人きりって
こと!?」
なんだコイツ、なんか1人でブツブツ言ってる。
ああ、こっちはもう怒りを抑えるので精一杯だ
ってのに。
そして階段へ来た。
「それで………水野くん、用事って何かな?」
「ああ、その事なんですけど。」
殺気を出して、鈴北の耳元に顔を近づける。
「てめぇ、桃瀬梨愛って分かるだろ?」
「っ…………!!」
予想もしていなかった内容だったのか、サーッ
と顔が青ざめていく。
「お前、梨愛に何したか言ってみろ。」
知らないとか言ったら、マジで容赦しねぇから
な。
もう、俺は理性を失いそうになっていた。
「え………あ……し、しらなっ」
「おい、知らないとかほざいたら、どうなるか分
かってるよな?こっちはもう全部知ってんだか
らよ。」
すると、鈴北は声を振り絞ってこう言った。
「か、かんき………」
「そうだよなあ?おい、てめぇ事の重大さ理解し
てんのか?嫉妬したとは言え、相手はあの桃瀬
フランだぞ?これ世間に知れたら、お前んちは
間違いなく落ちる。」
あの桃瀬フランを敵に回したんだ。
親バカなあの人達が黙っている訳が無い。
「それに、梨愛が近づいてるんじゃねえから
な。」
「え………?」
「俺が近づいてるんだよ、好きだから。」
「っ………で、でも清美くんにまで近づいて……
やりたい放題じゃない。」
コイツ、頭おかしいんじゃねえの。
「やりたい放題やってんのはどっちだ?梨愛が何
したって言うんだ、もし俺や清美が梨愛の事迷
惑だと思ってると見たんなら、教えてやるよ。
迷惑なのはお前らだ。」
すると、鈴北はその場にしゃがみこみ、手で自
分の顔を覆っていた。
そこまでなるか?でも、当然の仕打ちだな。梨
愛はもっと酷いことされたんだ。
「じゃ、俺はもう行くから。あ、それとファンク
ラブは解散させろ。」
「そ、そんなっ」
「そんなじゃねぇよ。迷惑だって言ってんだ
ろ。」
「は、はい…………」
そして俺はその場を後にした。


あー、スッキリした。
………ともいかない。
まだ俺は、清美に言うことがある。
梨愛が酷い目に合ってるってことも知らずに呑
気に過ごしていて、心底腹が立っている。
今日は清美にガツンと言ってやるつもりだ。
早速、清美を放課後に呼び出し、こう言った。
「おいお前、梨愛の事好きなのか?」
唐突で驚いたのか、少し目を見開く清美。
でもすぐに状況を飲み込んだらしく、真剣な顔
をした。
「ああ、好きだ。」
っ…………こいつ。
俺は清美の胸ぐらを掴んだ。
「だったら!梨愛が危険だって事くらい気づけ
よ、助けろよ!」
「………は?何言って………」
こいつ、本当に何も知らないんだな。
虫唾が走る。
「今日、梨愛は熱で休んでる。何故か分かる
か?」
一呼吸置いて続ける。
「お前のファンクラブの奴らに、手錠つけて監禁
されてたんだ。校舎裏の倉庫に、1人で。」
「………!!!!」
いつも笑っている清美だが、流石にこれは怒っ
ているようだった。
そして、自分の情けなさにも。
「梨愛の事は俺が助けた。だが、お前はどうだ?
さっき梨愛の事好きだって言ったよな?でも
な、お前が梨愛の事を好きなせいで、梨愛は傷
ついた。」
清美はストーカーじゃあるまいし、梨愛が危険
になっているのを気づけというのも無理な話
だ。
だが、コイツには呆れたな。
傷つけてばっかりのお前に比べて、梨愛はどれ
だけお人好しな事か。
俺は何も悪くないって、言ってくれたんだっ。
「クソっ。」
俺は、胸ぐらを掴んでいた手を離す。
「お前がこれからも梨愛の事を好きでい続けるな
ら、俺はお前を許せないだろうな。」
ここまで傷つけて、まだ梨愛の隣を望むなら、
俺は…………。
「っ…………」
清美は、言葉に詰まっていた。
今の状況を理解して、清美は自分の事を責めて
いる。
まさか、これで諦めるようなヘタレじゃねぇよ
な?
そんな奴に、梨愛を好きになる資格なんか初め
から無い。
「…………俺な、梨愛に告白してフラれたん
だ。」
「!」
「悲しかった、悔しかった。小さい時からずっと
一緒にいて守ってきた。だけど、梨愛は天然だ
から。まあ、そこが可愛いんだけどな。
………それ以前に、守っていた気になっていた
だけなのかもしれねえけど。」
梨愛はドジだから、俺がいつも近くにいて手助
けしていた。
でも………それは、梨愛にとってはなんてこと
無かったんだろうなあ。
「おい、清美。俺は、これからお前が梨愛の事を
好きでい続けても、諦めても許さない。梨愛を
想って、考えてくれ。」
そして、俺は何も言わずにその場から離れた。
校舎の窓の外を見てふと思う。
梨愛、お前は俺の事をどう見てたんだ?
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