8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~3
「そんなこと言ってぇ。逃げるつもりでしょう。駄目よ!」
『だってぇ。しみるもん、薬。嫌だ』

 子供のような駄々をこね、リーフェは背中を向けて逃げ出した。こうなるとアイラでは追いつけない。アイラはあっさりと方針を変えて、オリバーに向かって叫んだ。

「オリバー! リーフェを捕まえて!」

 オリバーは練習用の剣をその場に置き、リーフェが向かった方向へ先回りするように走り出す。
 リーフェは、オリバーに気づいて進路を変えたが、すでに遅かった。すぐにオリバーに追いつかれてしまった。

『わっ、オリバー、早い』
「聖獣姿の時なら無理だけど、子犬の時ならリーフェには負けないよ」

 昔から足が速いオリバーは、リーフェと並走できる速度を保ちながら尋ねる。

「リーフェ、その怪我、自分で治せるの?」
『私、治癒能力はないから無理。でも時間があれば勝手に治るもん』
「じゃあ、駄目だ」
『ひゃっ』

 オリバーはそう言うと、リーフェを捕まえる。急に持ち上げられたリーフェは足をバタバタとさせ、オリバーも勢いを止められず、そのまま数メートル走り続けた。

『離してよう、オリバー』
「薬を塗ったほうが早く治るよ。リーフェが怪我していると、アイラも気が気じゃないだろうし」
『やだ! アイラはお医者さんごっこがしたいだけだもん』
「そんなことないって」

 ようやく足を止め、オリバーはリーフェを抱き直して、その背中をなだめるように撫でる。アイラのもとに向かうと、すでに彼女の手には薬瓶が握られていた。

「はい、アイラ。連れてきたよ」
「さあ、リーフェ。少しの我慢ですよぅ。痛くないですからねー」
『嘘! 絶対しみるやつ! やっ……いたぁぁぁい!』

 薬を塗られた一瞬、リーフェは息を止め、その後叫び出した。暴れるので、押さえるオリバーも一苦労だ。

『……ううう』

 ひとしきり暴れた後は、尻尾を垂らして項垂れている。痛みはまだ続いているらしい。

「よしよし。これで治るよ!」

 アイラににっこりとほほ笑まれ、リーフェはまだしょぼくれたまま、上目遣いでオリバーを見た。

『オリバー、おろしてよう』
「痛くないなら。もう大丈夫?」
『平気』

 下ろしてもらった際に、リーフェはオリバーの肘にも擦り傷があるのに気づいた。
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