8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~3
 姉としての自尊心がうずうずする。

「お母様、この子が生まれたら、私、いっぱいお世話してあげるね」
「そうね。ありがとう」
「ふふ。じゃあ、歌を聞かせてあげるね。今度の合唱祭で歌うんだよ」

 アイラがフィオナのお腹を撫でながら、楽しそうに歌っていると、オリバーが入ってくる。

「母上」
「オリバーもお帰りなさい。着替えてきたのね」
「うん。母上もお変わりないですか?」

 どこか他人行儀に言うと、オリバーもアイラと同じようにお腹を撫でようとした。

「あれ?」

 オリバーが近づいた一瞬、アイラはにおいが気になった。

(獣のにおい? でもドルフのでもリーフェのでもない……どういうこと?)

 不思議に思ってオリバーの顔を見ても、いつもと変わりがない。

(さっきまでは、こんなにおい感じなかった。え? 後宮にほかの獣が入って来たの? それともオリバーが勝手に飼っている?)

 涼しい顔でアイラに内緒にしているのかと思うと、アイラの胸は複雑だ

「では僕はこれで失礼しますね」

 オリバーが部屋を出て行く。それを見送ってから、アイラはポツリと言った。

「ねぇ、母様。オリバーから変なにおいしなかった?」
「におい? そうかしら」
「……気のせいかなぁ」

 しかし、アイラからはずっと違和感が消えなかった。


* * *

 ネズミは眠ってばかりいた。まだオリバーのことを信用しているわけではないらしく、オリバーが部屋に入っても、寝床から出てくる気配はない。
 朝に置いた水とクッキーは、水が少し減っていただけだ。クッキーはそのまま残っている。

 オリバーは、「毒なんて入っていないよ?」とネズミの目の前でクッキーを半分に割り、半分は自分で食べ、半分はまたもとに戻しておく。

「チュウ」

 ネズミの警戒心はそれでも消えない。その後もじっと見ていたが、動く気配はなかった。

「僕、母上に挨拶をしてくる」

 オリバーは部屋を出て、居間に向かった。アイラの歌声が聞こえてきて、一瞬ノックするのをためらう。

(アイラがいるのか。母上に歌を聞かせているのかな)

 きれいな声だ。アイラの歌声を聞いていると、なぜか教会にいる時のような気分になる。
 ネズミの聖獣を隠しているという内緒ごとを抱えているせいか、気持ちが落ち着かず、オリバーは母親に帰宅した旨を伝えると、そそくさと部屋に戻った。
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