君のおとうとじゃない。

★岳*あかねに伝える。

 あの様子は一切キュンとしていない。
 僕じゃあ、ダメなのか?

 抱きしめられたり、可愛いと言われたりして、むしろ僕がドキドキしてキュンとした。

 その日はドキドキキュンキュンして、僕は一睡も出来なかった。


***

 夏休みに入った。
 あかねは熱を出した。

 彼女は本当に風邪をひかない人だったから、僕はかなり心配した。

 他の家族は仕事でいなかったから朝からふたりきり。

 熱が四十度近くもある。
 僕がなんとかしなければ……。

 朝からタクシーを呼んであかねを病院へ連れていく事にした。

 リビングの引き出しをあさる。
 あかねの保険証があった。

 後はお金……。
 診察代とか、いくらかかるのか分からないからとりあえず、貯めていたお小遣いを全部持っていこう。

 タクシーに乗った。

 病院までの距離は車で五分くらいで、そんなに遠くないのに、遠く感じる。

 そっと、あかねの頭を僕の肩に寄りかからせた。辛いあかねが、少しでも楽になるように。

 病院に着き、診察してもらった。
 風邪だった。

 診察を終え、処方箋を出してもらう。
 病院の隣の薬局で薬をもらい、家に帰って来た。

 とりあえず、沢山寝てもらおう!

 あかねを部屋に連れていき、ベッドに寝かせた。

 辛そうだ。

 出来るならその風邪が、辛さが、全部僕に移って、あかねが元気になればいいのに。

 こまめに麦茶を飲ませよう。

 冷蔵庫の麦茶を取り出そうとした時、冷蔵庫に貼ってあった “ 簡単プリン” のレシピが目に入った。

 卵と牛乳とハチミツを混ぜて、マグカップに移して、レンジでチンするだけで出来るプリン。

 僕は熱を出した時、無性にプリンが食べたくなる。

 よし、作ってみよう!

 五分ぐらいで完成し、冷凍庫に入れてすこし冷やす。

 麦茶と共にあかねの部屋に持っていった。

 あかねは弱々しく微笑みながら「ありがとう」と言い、作ったプリンを食べてくれた。

 本当に辛そうだ。

 彼女は麦茶を飲んでから眠った。このまま目を覚まさないのではないかと不安に駆られる。

 僕は床に座り、ベッドで眠っているあかねの手を握った。

 手を握りながら目を閉じた。
 出会った日から今日までの、あかねと過ごした日々の記憶が次々と頭の中で蘇ってくる。

 もう、彼女がいない人生なんて、考えられない。いなくなったら、生きていく自信がない。

 僕はあかねの事が、心の底から好きなんだと自覚した。
 
 回復して早く元気になってほしいと、全力で願った。彼女の手をずっと握ったまま。

 昼からずっと眠っていたあかねは夕方、目を覚ました。

「大丈夫?」

 僕はすぐに声をかける。

「寝たらさっきよりも楽になったかも」

 熱は三十七度に下がっていた。

「まだ微熱だけど、下がって良かった! 岳のおかげ!」

「本当に良かった!」

 ほっとした。

「あかねが生きてて良かった!」

 その言葉と同時に自分の目が潤んで、あかねのことが見えなくなる。

「大袈裟だよ! 風邪だし」
「風邪でも、油断できないよ。大好きな、愛してるあかねがいなくなってしまったらって考えたらもうムリ。僕……本当にあかねが好きなんだって気がついた。あかねの恋人になりたい」

 ――わっ! 勢いで告白をしてしまった。

 別に彼女がキュンとしなくてもいい。
 とにかくきちんと気持ち、伝えたくなって。


 あかねは無言でベッドから立ち上がると、本棚のところへ行き、ノートを取り出した。

 義弟にいきなり告白されても、ドン引きだよなぁ、これからどうしよう――。
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