通り雨、閃々
6. 音

明日釣りに行こう、とリョウが言った夜も、雨が降っていた。

「釣り? なんで?」

「イワナ食べたい。小学生以来食べてない」

「スーパーで売ってないの?」

「そんなイワナに意味ないよ」

私は怪訝な顔を向けたが、ヤツは枕にぽすんと頭を下ろした。

「ミクちゃん、イワナは好き?」

「食べたことない」

「人生損してる」

「別に損でいいよ」

リョウに背を向けて、私も枕に頭を沈める。
すかさず腰に腕が回って、ピッタリと身体を添わされた。
サアサアとやわらかな雨音が聞こえる。
風がないから、窓を開け放っていても入ってこない。
そんなしずかな雨だ。

「最近なんだか、昔のことばっかり思い出す」

首筋に顔を埋めてリョウは言った。
話すたび唇がうなじをかすめる。

「……雨降ってるのに」

「晴れるよ」

リョウの声はもう寝言同然だった。
肌で感じる呼吸が規則的になっていく。
私はゆっくりとひとつ深呼吸をした。

「俺、晴れ男だもん」

今年は梅雨明けが遅く、連日の雨で部屋の中はベタベタと湿っている。

瞼を閉じると、雨音と除湿器とリョウの寝息が聞こえていた。

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