通り雨、閃々

ザリガニ釣りを再開してまもなく、リョウは続けて二匹釣り上げた。
相変わらず私の糸は動かない。

「全然釣れない」

「隙間とか端にいることが多いから、石と石の間とか陰になってるところにスルメイカを置くようにしたらいいと思う。しばらく待ってもダメなら場所変えて」

言われた通り葉陰の見えないところにスルメイカを置くと、まもなく糸が動いた。
リョウは人差し指を口元に当てて、少し待って、と制す。

「もういいよ。しずかに、ゆっくり」

リョウに言われるままにゆっくり引き上げると、重みのある手応えがする。
水面に引き上げたら急に重さが増したけれど、焦る気持ちを抑えつつゆっくりと持ち上げる。

「釣れた! けど、どうしたらいいの!?」

触ることのできない私は、ザリガニをぶらぶら揺らしながらリョウの方に向かう。
リョウは自分の糸を置いて、私の糸先からザリガニをはずしてくれた。

「かわいい。赤ちゃんだ」

それはかなり小ぶりで、元気のいいザリガニだった。
私はなんだかうれしくなって、ニコニコとリョウを見上げた。

「釣ったザリガニってどうするの?」

「殺処分」

表情を凍りつかせた私を見て、リョウは満足そうに微笑む。

「――なんてね。でも条例では『釣ったザリガニを持ち帰ってはいけない』『他の場所に移してはいけない』って決まってるらしいよ。リリースは……どうなんだろう? ダメかな? まあどっちでもいいけど」

ザリガニたちはのそのそと発泡スチロールの底を動く。
そこに、リョウが釣り上げたもう一匹が追加される。

「俺は全然イイコじゃないからリリースするし、何匹か連れ帰る。怒られてもいいよ」

人間である私からすると、生き物を殺すのは日常だ。
室内に入ってきた虫は殺すし、もらったイカが生きていても殺して食べるし、そこに罪悪感なんてない。
今、楽しむためだけに釣ったくせに、たった数匹のザリガニの命を惜しむのは偽善だ。
偽善だけど、身勝手な良心は命を弄ぶことに痛みを覚える。
それでも私とリョウは並んで糸を垂れた。

「釣りって残酷な遊びだね」

「うん」

コツがわかってきたのか、私の糸はすぐに引っ張られた。


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