不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす
離婚をかけた夫婦の攻防◇離婚成立まで105日

 六月上旬、よく晴れた土曜日のこと。

「それでは、誓いのキスを――」

 牧師にそう呼び掛けられ、私はとても不本意な気持ちで目を閉じた。

 穏やかな波の音と、カモメの鳴き声が聞こえる。ここは豪華客船の甲板の上なのだ。

 東京湾を航行するクルーズ船を一隻丸ごと貸切った、ロマンティックな船上結婚式の最中。

 それなのに私がこんなに浮かない気持ちなのは、夫である剣先斗馬(けんざきとうま)さんのせいだ。

 斗馬さんは旧財閥系企業『剣先重工』の御曹司。見た目も家柄もパーフェクトだからって、なにをしても許されると思ったら大間違いである。

「緊張しているのか? しかめ面になっているぞ」

 唇が触れ合う直前、微かな声で斗馬さんに指摘される。無意識に眉間に皺をよせていたらしい。

「す、すみません」
「いや、そんなきみもかわいらしい」

 ボソッと呟いた斗馬さんが、優しく唇を重ね合わせる。

 本当ならキスなんてしたくないが、ここで拒んで剣先家との間に亀裂でも入ったら一大事。耐えなさい、千帆(ちほ)

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