不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす
食事の後、風呂に入ろうとしたら、俺用のバスタオルとフェイスタオルのセットがきちんと棚の上に置いてあった。
洗面台には髪の毛一本落ちておらず、床もぴかぴか。昼間、千帆が掃除したのだろう。
無理をさせたくない反面、千帆らしいなと温かい気持ちになる。
彼女は子どもの頃から、将来俺の妻になり、剣先家という格式のある家に入るのだという自覚が強かった。
勉強やスポーツ、茶道に華道、料理をはじめとするひと通りの家事や礼儀作法を学ぶ努力を怠らず、一途に俺を慕ってくれていた。
――それなのに。
服を脱いで浴室に入ると、頭上のシャワーから熱い湯を浴びる。どんなにそうしても頭の中から洗い流せないのは、後悔してもしきれない、たった一度の過ちの記憶だった。
* * *
《なぁ、お願いだから来てくれってば。パイロットと同レベルの男で誘えるの、お前くらいなんだ》
「断る。俺に大切な許嫁がいるのは知っているだろう」
それは二年前のこと。すでに剣先造船の社長として充実した毎日を送っていた俺に、腐れ縁の友人、服部夕飛が電話を掛けてきた。
早めに勤務を終え、どこかで一杯飲んでから帰ろうとしていたところだった。