毒令嬢と浄化王子【短編】
 木漏れ日を受けて金色の髪が光を反射している。
 ま、眩しい。顔面が眩しいわ。
「毒のある言い方だね?」
 にらみつける私に、青年は嬉しそうに口を開いた。
 台詞はさらに私を怒らせようとでもしているかな内容。

 悪口を言われたんだから、そりゃぁ、とげとげしい言い方にもなるでしょう。馬鹿にしてるの?
 毒令嬢として、社交界を追放された元子爵令嬢など馬鹿にしてもかまわないと思っているの?
 青年は笑顔を浮かべたまま、3メートルほどあった距離を詰めてきた。
「誰ですか?何の用ですか?」
 商人だとすれば、毒薬でも欲しいのだろうか?毒を扱う商品などろくな人間ではない。
「ああ、まだ、そんな怒ったような顔をして」
 青年が手を伸ばせば届くような距離まで近づいてきた。
 背が高いと思ってはいたものの、目の前に立たれれば顔を上に向けなければ青年の顔を見ることができない。
「用がないなら帰っていただけます?」
 青年はとても嬉しそうな顔をしている。
 一体何を考えているのか。目の前の女性を怒らせて喜ぶとか変態なの?
 それに……。
「あなたがどのような噂を聞いてここに来たのかは知りませんが……毒婦ではありませんが、毒令嬢であることは真実です」
 つ、ま、り、女の一人暮らしだからって、襲おうなんて考えたって駄目なんですからね!という意味を込めてさらににらみつける。
 毒婦と口にしたのだ。噂を聞いていることは確かだろう。どんな噂かはまぁおいといて。触ると危険だということは聞いているわよね?
「もしかして、この距離でも僕にそんな口をきけるの?」
 はぁ?
 それはどういう意味でしょう。
「まさか、女性があなたの顔を見て誰もがうっとりするとでも思っていらっしゃる?」
 確かにとても整った顔をしている。それだけではなく、優しそうな顔だし、男らしさもある顔つきで……商人というよりは女性があこがれる騎士……それも近衛騎士にいてもおかしくないようなカッコよさだとは思いますけど。
 それでも、さすがに誰もがうっとりと心奪われるなどと思っているのだとすると、すごい自信過剰だ。
 人には好みというものがある。
 ……まぁ、私の好みの顔ですけど。
 ですけどね、心をあっという間に奪われて恋に落ちるほど愚かではないんですよ……。
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