転移したら俺に三十点をつけた女性にそっくりな公爵令嬢が隣国の王太子殿下に寵愛されて妃殿下になりました。
【11】新たな命
トム王太子殿下に帰国の許可をいただいたにも拘わらず、メイサの帰国はあれから一ヶ月が経っても国王陛下に認めてはもらえなかった。
でもそれは国王陛下の本意ではなく、ローザがサファイア公爵夫妻に『メイサ様を帰国させては恋のお相手と逃げてしまわれる可能性があります。お妃教育を優先させるためと理由をつけて、帰国は丁重にお断りすべきです』と、忠告をしたせいだった。
サファイア公爵夫妻はメイサの相手が誰なのか問い詰めはしなかったが、挙式が無事に終わるまではメイサの帰国を頑として許すことはなかった。
メイサは帰国できないことを悲しんだが、レイモンドが従妹のアメリアの執事となり、今もサファイア公爵家に仕えていることを知り安堵した。使用人の誰が『レイモンドが退職した』と嘘をつかせたのか、今更そんなことはどうでもよかった。
毎夜一人になると、こっそりベッドの下からレイモンドの写真を取りだし胸に抱いて眠った。
――パープル王国の女学院に入学し、この国のしきたりを学び二ヶ月が経過した。お妃教育は順調に進み残すはあと僅かだったが、それは御成婚の日が近いということでもあった。
メイサは多忙な日々を過ごし、時にトム王太子殿下の婚約者として夜を共にすることはあった。
その時ばかりは、口煩いローザもメイサの部屋から遠ざかるため、トム王太子殿下が部屋を訪れてくれることを拒むことはなかった。
でもトム王太子殿下に寵愛されるほど、メイサはレイモンドのことを思い出した。
――ある日、最近食欲がなく体はだるく熱っぽいことに気付いた。
(そう言えば……。
この国に来てから一度も月のものはない。)
当初は環境の変化と心理的なことが原因で月のものが止まっしまったのだと思っていた。
最後にあったのは、トム王太子殿下と御婚約をした三週間前……。婚約の儀式は月のものが終わって二週間後だった。
お妃教育の一環で性教育も受けた。女性の体のしくみや男性の体のしくみも、受胎のタイミング療法や避妊に関してのことも学んだ。
(――まさか……妊娠?)
(御婚約の儀式の日、私はレイモンドとも体を重ねた……。)
(もしも妊娠していたとしたら、父親はきっとレイモンドに違いない。そう信じたい。でもその確証はない。)
メイサは初めて自分のしたことの重大さに気付き身震いがした。
月のものが止まってすでに二ヶ月だ。
この国の病院に行き確かめることもできない。
(どうしたらいいの?)
メイサの目に涙が滲んだ。
お腹にそっと手をあてる。
(いるの……? ここに……?
私の……赤ちゃん……。)
――夕食の時間になり会食室にローザと向かった。お妃教育を受けているとはいえ、まだ婚約中の身なので国王陛下や王妃、トム王太子殿下やカムリ王子殿下とは同席ではない。
会食室ではローザと二人きりだ。
広いダイニングテーブルの端と端に座り、食事中でもローザにテーブルマナーを注意される。
パープル王国に来て、サファイア公爵夫妻よりも厳しいローザにうんざりしていた。
給仕のメイドがテーブルに前菜とコーンスープを運んできた。コーンスープの匂いをかぎ、メイサは気分が悪くなった。
「うっ……」
胸を突き上げる吐き気に、ナプキンで口元を押さえて、慌てて椅子から立ち上がり給仕室に飛び込みシンクに顔を近付ける。
「メイサ様、大丈夫ですか? コーンスープがお口に合いませんでしたか? すぐに野菜スープをお持ちします」
ローザが嘔吐しているメイサの背中をさすってくれた。
「ここはいいわ。メイサ様のことは私がお世話します。今日は朝から体調がすぐれないのよ。胃に優しい食べ物をあとで寝室に運んで下さい」
「はい。畏まりました」
メイドは会食室から出て行く。
「メイサ様、まさかご懐妊では? 月のものはいつが最後ですか?」
ローザに嘘はつけない。
メイサは正直に話しをする。
「……御婚約の儀式をする前月が最後です」
「御婚約の儀式……。その前に他の男性との関係はないですね。ご懐妊ならばめでたいこと。ただし御成婚前にご懐妊とは、国民がどう感じるか……。とりあえず国王陛下にお知らせして王宮専属の医師に内密に診察してもらいましょう」
「はい」
「先ほどメイサ様のベッドの下に、このような写真が落ちておりました。まさかレイモンドがお相手だとは言わないでしょうね?」
「違います。それはアルバムに紛れていたものです。きっとメイドが間違えて梱包したのでしょう」
「そうですか。それならばもう必要ありませんね」
ローザはメイサの目の前でレイモンドの写真に火を点けた。メラメラと燃える写真を見て、メイサはとっさに手を伸ばした。
でもそれは国王陛下の本意ではなく、ローザがサファイア公爵夫妻に『メイサ様を帰国させては恋のお相手と逃げてしまわれる可能性があります。お妃教育を優先させるためと理由をつけて、帰国は丁重にお断りすべきです』と、忠告をしたせいだった。
サファイア公爵夫妻はメイサの相手が誰なのか問い詰めはしなかったが、挙式が無事に終わるまではメイサの帰国を頑として許すことはなかった。
メイサは帰国できないことを悲しんだが、レイモンドが従妹のアメリアの執事となり、今もサファイア公爵家に仕えていることを知り安堵した。使用人の誰が『レイモンドが退職した』と嘘をつかせたのか、今更そんなことはどうでもよかった。
毎夜一人になると、こっそりベッドの下からレイモンドの写真を取りだし胸に抱いて眠った。
――パープル王国の女学院に入学し、この国のしきたりを学び二ヶ月が経過した。お妃教育は順調に進み残すはあと僅かだったが、それは御成婚の日が近いということでもあった。
メイサは多忙な日々を過ごし、時にトム王太子殿下の婚約者として夜を共にすることはあった。
その時ばかりは、口煩いローザもメイサの部屋から遠ざかるため、トム王太子殿下が部屋を訪れてくれることを拒むことはなかった。
でもトム王太子殿下に寵愛されるほど、メイサはレイモンドのことを思い出した。
――ある日、最近食欲がなく体はだるく熱っぽいことに気付いた。
(そう言えば……。
この国に来てから一度も月のものはない。)
当初は環境の変化と心理的なことが原因で月のものが止まっしまったのだと思っていた。
最後にあったのは、トム王太子殿下と御婚約をした三週間前……。婚約の儀式は月のものが終わって二週間後だった。
お妃教育の一環で性教育も受けた。女性の体のしくみや男性の体のしくみも、受胎のタイミング療法や避妊に関してのことも学んだ。
(――まさか……妊娠?)
(御婚約の儀式の日、私はレイモンドとも体を重ねた……。)
(もしも妊娠していたとしたら、父親はきっとレイモンドに違いない。そう信じたい。でもその確証はない。)
メイサは初めて自分のしたことの重大さに気付き身震いがした。
月のものが止まってすでに二ヶ月だ。
この国の病院に行き確かめることもできない。
(どうしたらいいの?)
メイサの目に涙が滲んだ。
お腹にそっと手をあてる。
(いるの……? ここに……?
私の……赤ちゃん……。)
――夕食の時間になり会食室にローザと向かった。お妃教育を受けているとはいえ、まだ婚約中の身なので国王陛下や王妃、トム王太子殿下やカムリ王子殿下とは同席ではない。
会食室ではローザと二人きりだ。
広いダイニングテーブルの端と端に座り、食事中でもローザにテーブルマナーを注意される。
パープル王国に来て、サファイア公爵夫妻よりも厳しいローザにうんざりしていた。
給仕のメイドがテーブルに前菜とコーンスープを運んできた。コーンスープの匂いをかぎ、メイサは気分が悪くなった。
「うっ……」
胸を突き上げる吐き気に、ナプキンで口元を押さえて、慌てて椅子から立ち上がり給仕室に飛び込みシンクに顔を近付ける。
「メイサ様、大丈夫ですか? コーンスープがお口に合いませんでしたか? すぐに野菜スープをお持ちします」
ローザが嘔吐しているメイサの背中をさすってくれた。
「ここはいいわ。メイサ様のことは私がお世話します。今日は朝から体調がすぐれないのよ。胃に優しい食べ物をあとで寝室に運んで下さい」
「はい。畏まりました」
メイドは会食室から出て行く。
「メイサ様、まさかご懐妊では? 月のものはいつが最後ですか?」
ローザに嘘はつけない。
メイサは正直に話しをする。
「……御婚約の儀式をする前月が最後です」
「御婚約の儀式……。その前に他の男性との関係はないですね。ご懐妊ならばめでたいこと。ただし御成婚前にご懐妊とは、国民がどう感じるか……。とりあえず国王陛下にお知らせして王宮専属の医師に内密に診察してもらいましょう」
「はい」
「先ほどメイサ様のベッドの下に、このような写真が落ちておりました。まさかレイモンドがお相手だとは言わないでしょうね?」
「違います。それはアルバムに紛れていたものです。きっとメイドが間違えて梱包したのでしょう」
「そうですか。それならばもう必要ありませんね」
ローザはメイサの目の前でレイモンドの写真に火を点けた。メラメラと燃える写真を見て、メイサはとっさに手を伸ばした。