【完結】終わった恋にフラグはたちません!
番外編 ★ 祐一の本音①

八年ぶりの同居の夜


その日の僕は確実に浮かれまくっていた。

全く考えていなかったと言えば嘘になる。でもまさかこんな早く自分の要望が通るとも思ってはいなかったのだ。

ましてや、伊織と同居することになるとは完全に予想外。

(まぁ、伊織が家なしとわかった時点でこのチャンスを活かす方向に持っていったのは自分なんだけど──少し強引過ぎたか?)

その日は締め切り間近だったが、伊織が一旦会社に戻った後、これでもかというほどの勢いで何とか原稿をあげることができた。それは夜に万全の状態で伊織を迎える為──。

現在、二十二時四十五分。
伊織はまだ来ない。

(出版関係はこんなに仕事終わりが遅いのだろうか?)

遅い時間での帰り道、伊織は大丈夫だろうか、本当に来てくれるのだろうか……などと考えていると少し不安がよぎってしまう。
とりあえず伊織が来る前に身なりを綺麗に仕上げようと、僕はしばらく入っていなかったお風呂へと向かうことにした。

(今朝、臭かったかな?……匂っただろうな─……まさか今日、伊織が来るとは思っていなかったから。── 何あるかわからないし今は念入りに洗っておこう)


“ピロリーン”

その時だ。浴室に持ち込んだスマホに防犯通知の音が鳴り響く。

「うわぁ、ヤバッ! 伊織がエントランスを通ったのかな!? 早く出ないと……」

このマンションはエントランスを抜けると、この部屋に着くまで約五分ほどかかる。
もうすぐ来てしまうと焦った僕は急いで体を洗い終え、上半身裸のまま下だけスウェットを履きソファーで伊織が来るのを楽しみに待った。

ソワソワワクワク
ソワソワワクワク……

──が、十五分経っても伊織は来ない。

「ハ……クッション!」

(あれ? なんで来ないんだ、伊織? もうとっくに来てもいいはずなのに。……あ、まさか変な住人にでも絡まれたりしてないよね?)

変な胸騒ぎを覚えた僕は、今の自分の格好も気に留めず、ある小瓶を手に取り玄関へと向かう。
──と、ドアを開けたその瞬間。

伊織が驚いた顔で玄関の前に立っていたのだ。

(ハァ─……なんだ、伊織いたのか─)

一気に気が抜けた僕は安心した笑みを浮かべる。

「伊織─、マンションに入ってから十五分は経ってるよ。エントランスからここまでどんだけ時間かかってるの─?」
「み、澪先生?!」


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