【完結】終わった恋にフラグはたちません!
「え! 原稿、もう上がってるんですか? なら、担当の私に一言連絡くれませんか。担当が何も知らないなんて間抜け過ぎるので……」
そう言って、伊織は少し膨れた顔をして見せた。
(あ─……なんだよその顔、可愛すぎかよ─!)
伊織は昔から責任感が強い女性。前の会社で、彼女のせいでもないのに後輩をかばった代わりに処分を受けたことがあったっけ。
(その芯が強いところ全然変わってないなぁ─……それに膨れ顔も昔と可愛いままだし)
無意識だったのか、僕の手はいつの間にか伊織の頭を優しく包み込んでいる。ただ、何かしら伊織に触れていたかっただけかもしれないが。
「そういうところ、伊織は八年前と変わってないから安心した。気が強いところも優しいところも責任感強いところも……。でもまさか出版社に転職してるとは思わなかったよ」
そう話した途端、明らかに伊織の顔が段々と曇っていく。
(あ、あれ? 僕、何かおかしなことでも言ったかな)
すると、伊織は急に僕のよくわからないことを色々と聞いてきたのである。
「……あ─、やっぱり気付いてたんですね、私の性格。さっき私の雑なところ変わってないって言ってたし、もしかしたらって。……あの、変なこと聞くんですが……澪先生は、その、いつから、知ってたんですか? 結婚する前、それともその後? 私の性格が……嫌に、なったから離婚したんですか?」
僕は一瞬、頭が “?”になった。
正直、伊織の言う私の性格とはなんのことなのか……。伊織は責任感も強くて優しくて気が強いことは、付き合っている頃から知っていたこと。
(もしかして伊織……自分の性格をあれで隠していたつもりだったのか?
料理も頑張ってはいたけどいつも味薄かったし、漫画だって部屋には飾っていなかったけれど段ボールの蓋は開けっ放しだったし……結構、そのままの伊織だったと思うんだけど。
でも離婚理由……そっか、伊織はずっと気にしていたんだ。
ごめんね、伊織……)

