初恋ディストリクト
「まずは、隼八が女の子と話すことに慣れないとな。猫に餌付けしたところで、女の子と話すきっかけにはあまり繋がらないと思うぞ」

「そ、そっかな」

「じゃあ、どういう計画をしていたのか話してみろよ」

 僕は頭で想像していたことを、哲の前で言葉にしてみた。

 僕の計画はこうだ。

 猫に餌を与え、そこを彼女に見てもらう。または彼女が猫に餌を与えるのを見たら、近寄って僕も与えていた事を伝える。

 どっちにしろ、猫に餌を与えていたという共通点があれば、話すきっかけになるはずだ。

「それで、猫に餌を与えることが今は目的になっているってわけだ」

 哲は納得したように見えたが、急に首を横に振る。

「何がダメなの?」

「いつ猫に餌をやっているところを彼女に見せる? いつ彼女が猫に餌をやっているところを隼八が見る?」

「そのうち」

「あのな、それだとなかなか二度目のそういう偶然は起こらないぞ。先に、猫関係なく彼女に会ったらどうするんだよ」

 哲のその質問に僕は「あっ」と声を出す。

「その分じゃ、すでに彼女に会う機会があったんだな。だけど猫に餌を与えることが先にあったから、折角また出会えても何も出来ずに見送ったな」

 哲の言う通りだ。声を掛けるきっかけが分からず、見かけても何も出来ずじまいだった。

「哲、どうしたらいいの?」

「だから、隼八が女の子と気軽に話せるようにならないといけないわけだよ。その特訓をしようじゃないか」

「特訓?」

「まあ、任せな」

 哲自身、僕を助ける名目で楽しいと言わんばかりににたりと笑った。
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