初恋ディストリクト
 告白して失恋したわけでもないのに、何か心をぎゅっと掴まれる苦しいものを感じる。

「……なんだけど、僕が彼女に執着するのは、勇気が出せなくて声を掛けられなかったことをとても後悔しているからなんだ。もし、僕が声を掛けていたら、少しでも何かがずれてたんじゃないかって思うんだ」

「じゃあ、私の事はどう思う?」

「えっ?」

 私ははっきりと澤田君の顔が見られなくて、すごくモジモジしてしまった。

 澤田君も対処に困っている。

「だから、私は澤田君のことが」

 そこまで言いかけたとき、また揺れた。
 今度の揺れはちょっと足元がおぼつかない。

「ああ」

 私がぐらつくと、澤田君は駆け寄ってきてくれて私を支えてくれた。

「大丈夫かい」

 気持ちを伝えたいと思っていたけど、中途半端になってしまってとても気まずい。

 どうしよう。はっきりと好きだと言ってしまいたいのに、喉に声が引っかかって出てこない。

 かぁっとする熱いものがドクドクと体の中を流れて、それが胸に溜まっていくばかりで苦しい。

 発散できない気持ちをかかえて、泣きそうになってくる。

 揺れは収まったけど、私の感情は収まらない。

 澤田君も動きがぎこちなくなって、私に気まずい思いをしてそうだ。

「栗原さん、あのね、僕はずるいのかもしれない」

「えっ?」

「栗原さんが僕の初恋の人に似てるっていうだけで近づいてさ、それで調子に乗って仲良くなって、それがすごく楽しくてさ、なんていうんだろう、僕、今ではちょっと後悔してるんだ」

「何を後悔してるの?」

 私に声を掛けたこと? 
 初恋の人を想像して私と過ごしたこと? 

 澤田君の目を見ながら恐れていた。

「初恋の人に似ているって言って気をひきつけてしまったこと。そんなの関係なかった。栗原さんは面白くてとても楽しい人で、栗原さんと知り合えてとても嬉 しいと思ってる。僕は初恋の人と一度も話したこともなかったし、名前も知らないし、勝手に遠くから見ていて憧れていた人だった」

 澤田君は私をじっと見つめていた。そしてその先を続ける。

「憧れと、一緒に過ごして話した人とではなんか違うなって思う」

「それで?」

「えっと、栗原さんは本当に素敵な人だと思う」

「だから?」

「えっ? だから?」

「そう、だから、私のこと好きかって聞いてるの」

 とうとう我慢できなくて、思いっきり言ってしまった。
 昔から独占欲が強いから、はっきりとさせたくなってくる。

 自分の顔が赤くなってすごく熱くなってるのがわかる。

「えっと、その、えっと、それは」
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