夏の終わりと貴方に告げる、さよなら

「ストレートでも平気。ありがとう」

 そして、手渡されたカップは、一目でブランド物と判るティーカップだった。彼のセンスの良さに感心する。

 綺麗なカップに口をつけてしまうのを、少し躊躇う。けれど、せっかくの淹れたての紅茶が冷めてしまうのは、もっと申し訳ない。

 嶺奈は紅茶を一口、含んだ。温かい紅茶が、喉を滑り落ちていく感覚に自分が生きていることを実感させられた。

「……落ち着いた?」

 嶺奈が紅茶を飲んだのを見届けると、彼も珈琲を口にした。

「ええ……。少し、落ち着いた。ありがとう」

 言葉少なめに感謝を述べる。さっきまでの酷い動揺が嘘のように鎮まり、平常心が戻ってくる。

「今日は、ここに泊まって」

「え」
 
 有無を言わせない彼の口調に驚き、附せていた視線を上げる。

「独りにしておけない」

 彼と視線が合い、先ほどとは別の意味で動揺してしまった。

「…………」

 彼は私を哀れんでいるのだろうか。

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