皇太子殿下は護衛騎士を斯く愛せり
ひと晩の喧騒が明け、ソフィアは目覚まし時計の音で現実に戻された。

軍服に着替え、ルイスの元に参じると、ルイスは昨晩のことには、一言も触れなかった。

着飾った昨晩の自分と今の自分は全く別人だと言われている気がした。

だが宮中では、昨晩のソフィアが話題になっていた。

ーーあの令嬢はいったい、何処の誰だったのか

ーー舞踏会のお開き直後に居なくなった


「大した噂ではないか。どうだ、気分は?」


ルイスは薄笑いを浮かべ、ソフィアに訊ねた。

「実感が沸きません」

ソフィアは仏頂面で答えた。

「だろうな。噂によれば、ガラスの靴が片方だけ落ちていたそうではないか?」

「私はシンデレラではありませんし、昨晩はガラスの靴など履いておりませんでした」

「いっそ、ガラスの靴の持ち主を捜しているという噂を流してみるか?」

「お戯れを」

ソフィアは一笑したが、ルイスの目には1点の曇りも見えない。
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