私はあと何回、彼に恋をするのだろう 〜仕事とストレスと、そして恋と〜
『俺、紗絵とは付き合ってるけど、子供が欲しいから全摘出はやめてほしい・・とか、そういうこと言える立場じゃないよ』

だからあの時も、あんなふうに・・。
蓮斗・・。

彼の気持ちが全く理解できていなかった自分が情けなくて、涙が出た。

「やだっ、紗絵ちゃん泣いてる?」

「さつき〜」

「もー、そんなに大事なら、ちゃんと向き合わないと。蓮斗くん優しいんだから、迷ってると他の誰かに取られちゃうよ!」

さつきがハンカチで涙をふいてくれた。
いつもいつも、私に優しく接してくれる。

「今日、蓮斗くんは仕事?」

「うん・・日勤って言ってた」

「じゃあ早く蓮斗くんのところに行って!」

「・・うん」

「ほらほら、頑張って!」

「さつき・・ありがとう」


私に、今できることって何だろう。


あ・・。
ふいに、あることが頭に浮かんだ。

そうだ、そうしよう!
でも・・彼が喜んでくれるかどうかは、分からない。

けれど大事なのは。
彼が喜んでくれるかどうかではなく、私がどうしたいか、だと思うから。

腕時計に視線を落とす。

今日は日勤だから、あと1時間ほどで仕事が終わるはず。

それまでに、間に合うか・・。

まずは最寄りの区役所に向かった。
用紙をもらえさえすれば、どこの区役所でも良い。
閉庁ギリギリで、なんとか窓口に滑り込む。

「2枚・・書き間違えるかもしれないので、2枚ください!」

次は、時計のショップに向かい、ドアが空いた目の前にいた店員さんに声を掛ける。

「あのっ!!」

「いらっしゃいませ、お客様」

「IWCのポルトギーゼを買いたいんですが・・」

「はい、ありがとうございます。どのタイプをお出ししましょうか?」

「クロノグラフで、文字盤がシルバー、数字と針がブルーで・・・ストラップもブルーのアリゲーターのものを」

「承知しました。ご要望のものは、こちらでよろしいでしょうか?」

「・・はい」

「おそらく・・お客様からの大切な贈り物ですよね?」

「はい。ものすごく特別な」

「少しだけお時間くださいませ。素敵な包装でお包みしますので」

「ありがとうございます」

私は、彼がずっと憧れていた時計を買い、とても綺麗に包装されたケースを、大切にバッグにしまった。
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