冷血公爵様が、突然愛を囁き出したのですが?
 目覚めてから一ヶ月が過ぎた頃。
 
「ねえ、もうあの人臭くて近付きたくないわ」
「ほんとよね。最近体拭いたの誰? ちゃんと綺麗にしたの?」
「ねえ、なんで私達がこんな事をしないといけないの? 最初の話と違うわよ。明日から奥様に世話をさせましょうよ」

 部屋を掃除する侍女達は、声の大きさを気にかける事なく、手を休めては会話を楽しんでいる。
 僕がいるのにも関わらず、平気で僕の悪態をつく声は聞いていて非常に不快だ。
 聞きたくない言葉が勝手に聞こえてくる。
 いっそのこと、この耳も聞こえなくなれば良かった。
 
 彼女達の口から出た『奥様』の言葉に一瞬、誰の事を言っているのか分からなかった。
 そういえば、僕は結婚しているんだったな。
 顔もよく思い出せない。興味が無い名前も忘れてしまった。

 政略結婚。世継ぎを産むためだけの女。
 使用人からは、僕のお金を思うがままに使い込み、男遊びも酷いと聞いている。
 そんな奴が僕の世話をまともに出来るのか?
 手厚い待遇を受けていた使用人でさえこの態度だ。
 僕が無視し続けてきた女は、一体僕にどんな酷い事をしてくるのだろうか。
 
 怖い。逃げたい。
 もう、死んでしまいたい――
 
 
 
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