成果報酬有りの家庭教師にイケメン弟の写真というにんじんを鼻先にぶら下げられて、もう走るしかない。
 もう十何年も前のことで折原くん本人は覚えていないかもしれないけど、実は私は彼と保育園が一緒だった。「結婚しよ」とか、お互いに言い合っていた事もある。私は入学式の時に、折原くんを一目見てすぐにあの時のしーちゃんだと言うことには気がついていた。

 今の関係を考えればもちろんなんだけど、彼からそれを指摘されたことは今の今までない。モテモテな彼は私のような平凡女子との思い出など、記憶の遠い彼方に追いやられてしまっているに違いない。

 背も高く頭も良くスポーツ万能。そして、顔面を含むヴィジュが最強。これで、モテないはずがない。

 私は家庭教師から送られてくる彼の写真を見て、それだけで満足していた。

 ポカポカとした陽気に暖められた芝生の上に座ってポケットからスマートフォンを取り出し、いつものように折原くんフォルダを開く。慣れた手付きで、もう今では十何枚にも増えてしまった彼の画像をじっと眺める。

 折原くんと私が付き合うなんて事、きっと未来永劫あり得ない。でも、私が彼を好きなことは間違いない。

 だから、普通なら手に入るはずのないプライベートな写真をじっと見つめて、にまにましてしまうのは許して欲しいと思う。

 どうか、それだけで。報われるはずなんてないと、ちゃんとわかっているから。

「……え? 俺の写真? ……なんで?」

 頭の上から戸惑った声がして、私は信じ難い思いのまま咄嗟に動いて声の主を見上げた。
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