王太子の婚約者は、隣国の王子に奪われる。〜氷の公女は溺愛されて溶けていく〜
 惹かれたのはシャレードも同じだった。

 目が合った彼は、エキゾチックな褐色の肌に、切れ長だが目尻が少し垂れた優しげな目、そこにはまった深みのある翠の瞳で、シャレードを見ていた。
 非常に整った目鼻立ちもさることながら、なにかがシャレードの琴線に触れた。

(印象的な方……)

 軽く会釈したはずみに揺れた髪はとてもめずらしい色で、ピンクがかったパール色だ。
 服装も独特で、膝までの長い上衣は立襟の部分を中心に華やかな刺繍で彩られ、スラリとした長身のラルサスをより魅力的に見せていた。

(この国にはないめずらしい色合いだからかしら?)

 そんな容姿をした彼の熱のこもった眼差しに、シャレードの胸はざわついた。
 それでも、普段から感情を抑えることに長けている彼女は、静かな目で、ラルサスを見返す。
 
 二人は引き寄せられるかのように、見つめ合い、カルロの声で己の立場を思い出したシャレードが先に目を逸らした。 

(……さっきのはなに?)

 シャレードは戸惑った。
 ラルサスの瞳には、ずっと見つめていたくなるような磁力があり、抗いがたい熱情を感じた。
 反対に『見た目だけはいい』というカルロの心ない言葉にはみじめな気分にさせられたが、ラルサスに気づかうような視線に気づき、トクンと心臓が跳ねた。
 しかし、それらをすべて隠して、シャレードはラルサスに挨拶をする。

「はじめまして、ラルサス王子殿下。シャレード・フォルタスと申します。ダンバー王立学院ではご一緒させていただくことになりますので、なにかありましたら、気軽にお申しつけくださいませ」

 シャレードはカルロの蔑みには慣れていた。しかし、傷つくことにはいつまでたっても慣れない。
 胸を痛めながらも、表には出さず、美しい所作でスカートを摘んだ。

「ラルサスとお呼びください。こちらこそ、不慣れですが、よろしく頼みます」

 ラルサスがふんわり笑った。
 ハッと息を呑む音が聞こえる。うっとりとした溜め息も聞こえた。ハンサムな彼の笑顔に周囲の女性が反応したのだ。
 それはシャレードも例外ではなく、めったに動揺しないはずの彼女の心も波打った。



 音楽が始まり、カルロとシャレードがファーストダンスを踊りはじめた。
 濃い黄金色の髪のカルロと、銀髪のシャレードは見目麗しく、似合いのカップルに見えた。
 しかし、彼らは外見同様、内面も対照的だった。
 ハンサムだがどこか崩れた雰囲気のカルロに対し、冷たいとも評される美貌のシャレードは真面目で、堅苦しいとしばしばカルロに揶揄される。

 ダンスにもそれが表れていて、踊り慣れているので見栄えはするが、よく見ると、おざなりにリードするカルロに、きっちりとしたステップを踏んでついていっているシャレードがわかったに違いない。
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