王太子の婚約者は、隣国の王子に奪われる。〜氷の公女は溺愛されて溶けていく〜
 図書館、談話室を案内したシャレードはこれで終わりだと告げた。
 彼女は読書も好きらしく、よく図書館に行くそうだ。
 物静かな彼女らしいとラルサスは思った。
 彼も本を読むのは好きだ。
 見知らぬ場所、見知らぬ人に想いを馳せたり、自分では考えも及ばない知識が増えたりするのが楽しかった。
 他国の図書館なら、尚のこと興味深い。
 また来ようと思いつつ、ラルサスはそこを後にした。

 談話室を出たところで、ばったりカルロに出会った。
 相変わらず、両脇に女性を従えている。

「おぉ、愛しの婚約者殿」

 そう言いながらカルロはこれみよがしに、女の子たちの肩を抱いた。彼女たちも勝ち誇ったような笑みを浮かべてシャレードを眺める。

「ごきげんよう、カルロ様」

 感情を揺らすことなく、シャレードはスカートを摘んで、優雅に挨拶をした。

「そちらにいらっしゃるのはラルサス王子ではないか。シャレードの相手をしてくださっていたのか?」
「いいえ、私がシャレードに校内案内をお願いしたのです」

 カルロの態度に反発を覚えたが、こんなことでことを荒立てるわけにもいかず、ラルサスはにこやかに答えた。
 彼の笑みに、カルロの両脇の女の子たちが惹きつけられ、それを感じたカルロが苦虫を嚙み潰したような顔になる。

「シャレードの案内など、つまらなかっただろう? 堅苦しくて面白みがないからな」
「とんでもない。とても楽しい時間でしたよ」

 あざけるようにシャレードを見たカルロに対し、ラルサスは笑みを深めた。そうでもしなければ、怒りをあらわにしてしまいそうだったから。

『こいつのシャレードへの扱いはひどすぎる。よく我慢しているな、彼女は!』
『ほんとイヤなやつ!』

 ラルサスは思わずフィルに漏らした。
 それに同意したフィルは、カルロに飛び蹴りを食らわせていて、ラルサスは少し胸のすく思いがした。
 反対に、カルロはラルサスの答えが面白くなく思ったらしく、不機嫌そうに彼を見た。

「ラルサス王子がシャレードをお気に召されてよかったです。私の婚約者ですが」

 嫌味っぽくそう言うと、プイッと顔をそむけて去っていった。

(本当に王族の取る態度ではないな)

 やれやれとあきれて、その姿を見送った。

「見苦しいところをお見せして、申し訳ございません」

 侮辱されたシャレードのほうに謝られ、ラルサスは首を横に振った。

「いいえ、あなたの態度は立派でしたよ。あの王太子の婚約者というお立場は大変そうですね」

 よその国の王太子を批判するわけにはいかず、ラルサスはそう言って、シャレードを慰めた。
 労られるとは思っていなかったシャレードは少し目を見開いたものの、感情を見せない目で彼を見返し、黙って頭を下げた。
 シャレードの心がほんのり温かくなった。


*――***――* 
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