ハライヤ!
僕の家は、学校前の道をずーっと行った先にある。
だけど僕は自分でルールを作っていて、登下校時には真っ直ぐに進まずに、いつも決まって回り道をすることにしていた。

だって真っ直ぐ行った先には、アレがあるから。

「あれ、宗太くんの家ってそっちなの? じゃあ、ここでお別れだね」

いっしょに帰っていた僕たちだったけど、四つ角の所で山本さんが言ってくる。
だけど、ちょっと待って。

「もしかして山本さん、その道を通って帰るの?」
「そうだよ。あたしの家、こっちだもん」
「本当は僕の家もそっち通った方が近いんだけどさ。その道に、オバケが出るってウワサがあるの知らない?」
「オバケ? 何それ?」

不思議そうに首をかしげる山本さんに、僕は学校で有名な、怪談話を話し始める。

実はこの道を進んだ先にはボロボロの空家があって。その家の塀には、赤茶色の大きなシミがあるのだ。
子供くらいの大きさの、人の形をしたシミが。

そしてウワサではその前を通ると、シミが塀から抜け出して、通行人を食べてしまうとか。

本当かどうかは分からないけど、男子の間じゃ有名な怪談で、僕が毎日わざわざ遠回りをしているのだって、これが理由。

さすがに一回も通ったことが無いわけじゃ無いけど、その時見たウワサのシミはとても不気味だった。

そのシミが、本当に通行人を食べてしまうのかは分からない。
だけど本当に不気味なシミで、遠回りしてでも近づきたくはなかった。

けど話を聞いた山本さんは、おかしそうに笑いだす。

「あはは、オバケなんているわけないじゃない。あたしこっちに来てから何度も通ってるけど、一度も怖い目にあったことないよ。ふふふ、宗太くんって怖がりだねえ」
「こ、怖がりなんかじゃないよ。念のため、近づかない方がいいってだけ」

怖がりって言われてちょっとムッとしたけど、山本さんは相変わらずケラケラ笑っている。

「考えすぎだよ。でも、そんなシミがあるなんて知らなかった。よし、今から行ってみよう」 
「わざわざ行くの?」

危ないかもしれないのに。
僕は山本さんが心配で注意したのに、どうやら逆に興味を持ってしまったみたい。
だったら。

「それなら、僕も行くよ」

本当は山本さんの言う通り怖かったんだけど、もしも本当になにか起きたら。
僕が話をしたせいで興味を持っちゃったんだし、一人で行かせる気にはなれなかった。

「宗太くん、ふるえてるけど平気? でもだいじょうぶ、本当にオバケが出てきても、アタシがやっつけてあげるから。行こう行こうー」
「あ、待ってよー」

ポニーテールをゆらしながらかけて行く山本さんを、僕はあわてて追いかける。

ああ、もう。
どうしてあんな気味の悪いものを見たがるかなあ。

ため息をつきながら歩いて、たどり着いた空家。
ここに来るのは久しぶりだけど、塀には昔見たのと同じ、人の形をした不気味なシミがあって。やっぱり気味が悪いや。

「これがウワサのシミだね。何度も通ってたのに、今まで気づかなかったよ。ねえ、これってなんのシミなの?」
「知らないよ。ウワサでは、ここで交通事故にあった人の血だとか、家に住んでいた人が亡くなって、怨念になったとか言われてるけど、本当のことは分からない。さあ、もう行こう」
「待って。少し調べてみるから」
「ええっ、ちょっ、ちょっと⁉」

僕が止めるのも聞かずに、山本さんはベタベタとシミをさわりだす。
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