エデンの彼方でいつかまた
偽装結婚
フロントにスマートフォンを渡した瑞希は、敬信の計らいを断り清掃業務を完了させた。
自分がやらないとその分、他の従業員の負担は増えるし、働いた賃金は欲しい。

敬信のマンションのエレベーター内である。

「まじめだな、瑞希。塾をサボっていたあの頃とはちがうな」
「もう、それを云わないでください。わたしなりに反省はしてるんです」

瑞希は顔を赤くさせると、敬信が笑った。

「瑞希がサボらなかったら、今こうして会うこともなかったかもしれん。怪我の功名ってヤツだな」

やがてエレベーターは最上階にたどり着く。

「すごいお部屋ですね……!」

センスの良い部屋、調度品。
すべてが洗練されている。
座り心地のいいソファに座り、シンプルながら豪華絢爛な室内を瑞希はキョロキョロと見渡した。

自分のアパートの部屋はワンケーだが、一体それがいくつあるんだろうか……。

そんなことを考えていると敬信がパーツボックスを持ち、リビングに現れる。

「あのお店も……。お兄さん、すごい人だったんですね」

「たまたまさ。親しい仲間内で騒げればいい。そう思って作った店だったんだが、知らないうちに会員が増えていって。簡単に入会できないよう、会費を高くしていったんだが」

敬信の知名度が上がるほど敷居も高くなり、今の状態になったという。

「それが裏目に出て、さっきのような勘違いした連中もくるようになった。嘆かわしいことだな」

瑞希の隣に座りブレスレットを手に取ると、状態を確認し始めたので、瑞希はギョッとした。

(と、となり!? 向かい側に座るのかと思ってた)

ドキドキと心臓が早鐘を打っている。
初恋の相手であり、敬信は大人の男なのだ、仕方がない。

「留め金が壊れたか。まだまだ作りが甘かったな」

緊張で硬直する瑞希を知ってか知らず知らずか、二十一年ぶりに再開したブレスレットを、しげしげと眺める。

「ごめんなさい、留め金をあまり使わなかったから……」
「よくあることだ。そういう想定はしてある」

工具と部品の入ったパーツボックスから、合いそうな部品を選び修理を始めた。

「こんな作業するのも久しぶりだ。……あの時は自信があったが、こうやってみると、本当ヘタクソだな」

大きな手が器用に繊細な修理を続ける様に、職人の美しさというのだろうか。
見惚れてしまう。

やがて修理を終えヒロインに手渡す。

「腕に合わせてサイズ調整をしておいた。今度はダブつかなし、具合がいいだろう?」

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