悪魔な国王陛下は、ワケあり姫をご所望です。



 ぎゅっと強く抱きしめると、懐かしい大好きな香りが胸いっぱいに広がる。



「たくさん辛い思いをさせて、たくさん迷惑かけてごめんなさいね。でも私はあの人の所へ嫁いだことに後悔してないわ。だってこんなにも可愛い娘に出会えたんですもの」


「私もよ。母様の元に生まれて本当に良かった」


「ファウラの行く道を母さんが照らすから。どうか幸せにね」




 物心付くときから母親が首に掛けていた指輪を通したネックレスが、手の平に握らされた。

 母親の故郷に伝わる大事な物。いつかファウラに大切な人が出来た時、託すと言われていた物だった。

 例え、敷かれた道だとしてもそこで幸せを見つければいい。

 政略結婚だとしても、運命の出会いに変えてしまえばいい。

 これまで数々の試練を乗り越えてきたのだからと、母親から受け取ったネックレスを首に掛けた。



「幸せな結婚をして参ります。母様も、どうか幸せに」


「ええ。愛しているわ」




 受け取った愛情を胸に、エドガーに再び手を取られて馬車へと乗り込む。

 離れていくエドガーの手の指先を、ほんの僅かに握った。手を取ってくれた彼の温もりを最後に少しでも長く感じていたかった。

 兄のような存在でもあり、何でも話せるたった一人の親友。そんな彼が、最高の笑顔を見せて綺麗だと呟いた。

 閉じていく扉を見つめて、溢れてきた涙が一つ頬を伝って行った。

 花や綺麗なリボンで装飾された馬車は、エドガーの父フリエルからの結婚祝いの物。王宮ではありえないくらいの幸せな贈り物達を眺めていると、馬車が走り出す。

 走り出した馬車を追いかける街の皆に涙は要らないと強く拭って、愛する家族に行ってきますと窓から手を振った。


 こうして、ファウラは自分の大切な故郷から旅立った。








 
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